タイトル | 7さいからはじめる ゲームプログラミング |
著者 | STAR Programming SCHOOL(スタープログラミングスクール) |
出版社 | 実務教育出版 |
価格 | 1994円 |
言語はScratchがいちばん使いやすい
2020年のプログラミング必修化を前に、先生や生徒、コンピュータ関連の書籍を扱う出版社などは、ざわつきはじめているのではないでしょうか。
大半の人がイメージしているのが、「Scratch」などのプログラム言語学習環境を学校のパソコンで使えるようにして、授業の中でサンプルプログラムを作りながら、プログラムとはどういうものかを学んでいくというものでしょう。
「Scratch」と似たような教育目的の言語(環境)には、「Alice」「LOGO」「RoboMind」「Kodu」「MOONBlock」などいくつかありますが、現時点でいちばん知られていて使いやすそうなのが「Scratch」でしょう。ですので、子どものプログラミング教育の中心になっていくのは「Scratch」であると予想できます。その「Scratch」をベースにした教本は数多くあるわけですが、プログラミングへの興味や備わる知識は人それぞれであり、とくにパソコン初心者が開いたページをすぐに閉じたくなるような本では困ります。

ここで紹介する「7歳からはじめる ゲームプログラミング」(実務教育出版)は、表紙に「7さいからはじめる」をうたうほど、読者の対象年齢を下げたゲームプログラミングの教本です。大人がページをめくると「こんな絵本みたいな内容でいいの?」と思う人も出てくるかもしれませんが、「シューティングゲーム」や「グリーティングカード」など、アプリケーションを実際に完成させるまでの手順がひとつひとつ丁寧に解説してあり、パソコンに弱い先生や親御さん、そして小さな子どもでも無理なく読み進められます。
ページに画像や文章をギュウギュウに詰め込む技術書とは違い、「Scratch」の最大の特徴である“積み木”のようなプログラミングを、ブロック1つ1つの意味を覚えながら、やさしく“積み木遊び”感覚で学べる内容になっています。子ども一人でも学習できますし、親御さんや友だちと一緒にワイワイしながら学ぶこともできます。
初心者向けの教本は、紙面にどれだけの情報を詰め込むかは問題ではなく、どんな読者でも無理なく読み進められ、読み切れる。これが最も重要だと考えます。本書を読み切ったあとに「これは覚えたぞ!」と自信をもって言えるものが1つでもあれば、それは初心者向けの教本として成功ではないでしょうか。
そう考えると本書は、子どもの「論理的思考力」「想像力」「表現力」「コミュニケーション力」を、少しずつゆっくりと磨き養うための、有力な教材のひとつになると思います。

20年前にも同じようなことが
実は20年くらい前に、小・中学校へのパソコンの導入がはじまり、“学校のパソコン教育元年”として話題になったことがありました(当時はNECのPC-9801が主流だった)。パソコン教育関連の雑誌を企画していた私は、都内の小中学校を回って取材をしていました。
文科省も、大々的に予算や学習時間を組んだものの、学校側(というか先生)は大慌てで、生徒は物珍しさにマウスをカチカチするばかり。パソコン系出版社も学校のコンピューター教育の雑誌や書籍をあれこれ出していましたが、どの雑誌や書籍も、うまくいったという話は聞きませんでした。
当時は、パソコンを学ぶ授業の中で、BASICというプログラミング環境を使い、教本を見ながらポチポチとアルファベットを入力していました。しかしパソコンをよく知っている先生がほとんどおらず、先生もイチから勉強しているような状態で、むしろ新しいことをすぐに覚えられる生徒のほうが、軽やかにパソコンを触っていました。
映像と音声を組み合わせた「マルチメディア」という言葉がはやりはじめたころで、それらを駆使したソフトウェア教材もあったようですが、どれもこれも今ひとつという感じで、子どもの興味を引くようなものはあまりなかったと思います。
実は想像したいたものと違っていた
今回Webの記事で、文科省を取材して「プログラミング必修化の勘違い」を指摘する記事があったので読んでみたのですが、自分も勘違いしていたのか、想像していたプログラミング教育とは少し違うようでした。
その記事では、主に以下の3つが指摘されていました。
- “プログラミング”という教科があるわけではない……そのためプログラミング専用の教科書や試験があるわけではなく、算数や理科、総合など、すでにある教科の中でプログラミング学習が実践されるようです。
- プログラミング言語を使うわけではない……文部科学省は、小学校のプログラミング教育は「プログラマーの育成が目的ではない」と言い切っています。物事には手順があり、手順を踏むと物事をうまく解決できるといった、論理的に考えていく力(「プログラミング的思考」と定義)を学ぶことが目的のようです。
- 毎回パソコンやタブレットを使って授業をするわけではない……もちろん、使うことも大いにありますが、紙と鉛筆を使ったり、体を動かしたりして、「プログラミング的思考」を学ぶこともあるそうです。
……ということを踏まえると、クラブ活動や特別授業でもない限り、Scratchを使ってサンプルゲームを作り上げるようなことは、通常の授業では出てこないかもしれません。
子どもが学校でコンピューターを触る時間が必要か否かと聞かれれば、必要だと思いますしドンドン取り入れてもらいたいと思います。ですがプログラミング言語の勉強が必要か否かと聞かれれば、正直よくわかりません。子どもがわざわざ目的かわからない言語を、学びたくなるかどうかです。
文科省が言う「論理的な思考を学ぶことが目的である」という趣旨が、プログラム言語を学ぶのが近道なのか、それ以外の方法があるのか、どういう教材を使うのがベストなのかなど、わからないことだらけです。
もうこれは、とにかく「プログラミング教育」をスタートしてもらって、その方法が適切なのかどうかは、主役の子どもたちに判断してもらうしかないですね。ダメなら少しずつ軌道修正すればいいのだし。

失敗してもいいからやってみる
Scratch言語を覚えるのがダメと言っているわけではありません。選択肢がたくさんあるコンピュータ教育のための教材のひとつにはなっていると思います。ただこの時点では、それが最善策かどうかはわかりません。
まずは、「失敗してもいいからやってみる!」ですかね!?
