未踏ジュニアは、独創的なアイデアをもつ小中高生クリエーターを対象とした支援プロジェクトです。プロジェクトは公募制で、採択されると「自分の作りたいもの」が形になるようにさまざまな支援を受けることができます。
画像: 未来の日本を支えるクリエーターを応援――「U-17ミニ未踏プロジェクト」成果発表会レポート

2016年から始まって、今年で3回目を迎えたこの未踏ジュニア。本年(2018年度)は、105件の応募のなかから、12のプロジェクトが採択されました。10%以下という高い競争率を勝ち抜けたプロジェクト。いったい誰がどのようなものを作ったのでしょうか。その様子をレポートします。

小中高生を対象としたクリエーター支援プロジェクト

未踏ジュニアは、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が実施している、「未踏事業」のミニ版です。未踏事業とは、2000年からはじまったITを駆使したイノベーションを創出できる若い人材の発掘・育成を目的とした支援プロジェクト。そこから1700人以上の優れたクリエーターが生まれ、さまざまな分野で活躍しています。

未踏プロジェクトの主なターゲットは、大学生や社会人。それよりもっと若い小中高生にも、似たような支援をしようということで生まれたのが、この未踏ジュニアです。

4ヶ月で作りたいものを形にする

プロジェクトが採択されると、プロジェクトマネージャと呼ばれる担当者(主に、未踏のOB/OG。ボランティアで行われています)がつき、アドバイスを受けながら4ヶ月の期間で、実際に提案したモノを作っていきます。開発に必要な機材や場所、費用(最大50万円まで)も支援されます。

4ヶ月間の流れは、図1の通りです。この図からわかるように、未踏ジュニアではただ作るだけでなく、合宿もあり、小中高生のクリエーターと未踏OB/OGの人たちが交流する場が提供されているのも大きな特徴です。実際成果発表会では、未踏ジュニアの良いところとして、さまざまな人と出会えたということを挙げている人も多かったです。

画像: 未踏ジュニアプロジェクトの流れ

未踏ジュニアプロジェクトの流れ

成果発表の結果、特に優れた成果を残したと判断されたクリエータは、未踏ジュニアスーパークリエータとして認定されます。認定されると、未踏プロジェクトに推薦してもらうことができます。また、慶応義塾大学ではAO入試として認定されるなど、進学に有利な面もあります。

すぐに商用にできる作品から、優れたアイデア、そして研究まで、さまざまな分野に渡る成果発表会

今年の成果発表会は10月21日に行われ、全12プロジェクトが実際に作ったものを発表しました。成果発表会には誰でも参加でき、当日は教育関係者や企業のIT関係者など、多くの人たちが集まりました。

以下、12プロジェクトのうち、未踏ジュニアスーパークリエータに認定された6名(6プロジェクト)について、簡単に紹介します(敬称略。順不同)。

UTIPS(三橋 優)

画像: UTIPS(三橋 優)

「こんな便利な家事のやり方があるよ」ということを共有するWebアプリ。スマホでもパソコンでも、どちらでも使えます。

家事のやり方は家によって違うけれども、家の中のことなので、なかなか共有されない。共有されたとしても友達同士の範囲くらい。ということで、家事に特化した共有サービスがあってもよいのではという思いで作ったそうです。

登録された情報は、単に商用のWeb開発でも時折使われている「Ruby on Rails」という環境を使っていて、データベース保存するなど、本格的な作りになっています。

※Ruby on Rails……Rubyという言語で書かれたオープンソースのWebアプリケーション用フレームワーク。

画像: 家事の共有サービス

家事の共有サービス

Let'sえいごパズル!(平野正太郎)

画像: Let'sえいごパズル!(平野正太郎)

英文字が描かれたブロック(現実世界の積み木のようなブロック)を、画面に表示された英単語と同じように並べる「英語パズル」。ブロックには液晶画面がついていて、そこにアルファベットが表示されますが、これももちろん自作です。

ブロックの部分には、Arduinoという今流行りの電子工作の部品を利用。どの文字を表示するのかを赤外線で通信するなど、とても複雑なつくりです。赤外線での通信は、環境によってときどき失敗することがありますが、その場合に、再度通信して直すためのボタンをつけるなど、問題が発生したときの解決法まで、きちんと考えられています。

※Arduino……電子工作用のマイコンボード。マイコンボードは小さなパソコンのようなもの。

ハードウェアとソフトウェアを組み合わせた作品で、技術力の高さがうかがえる作品でした。

画像: ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたLet'sえいごパズル

ハードウェアとソフトウェアを組み合わせたLet'sえいごパズル

Vreath(末神 奏宙)

画像: Vreath(末神 奏宙)

Vreath(ブレス)は、独自に考案したブロックチェーンを採用した新しい暗号通貨。

画像: 誰でも手軽に手に入れることのできる暗号通貨

誰でも手軽に手に入れることのできる暗号通貨

ブロックチェーンは、ビットコインなどの仮想通貨で使われている基本技術です。現在のブロックチェーンは、1つ1つの取引が鎖のようにつながっていて(鎖でつながっているから「ブロックチェーン」と呼ぶのです)、その鎖で、全体の取引内容の履歴が正しいかを確認する仕組みで作られています。

この履歴が正しいかどうかを確認するには、とても複雑な計算が必要です。ブロックチェーンの仕組みが使われている代表的な仮想通貨がビットコインです。ビットコインでは、この複雑な計算を参加者に解かせて、一番早く解いた人に賞金を与えるという仕組みで、履歴の確認をしています。ですからビットコイン界隈では、この賞金を目当てに、高速なコンピューターを使い、たくさんの電力を消費して、日々計算し続けている人がいます(そしてそういうことを生業としている業者もいます)。このような賞金を得る行為は、「発掘」とも呼ばれます。

普通の人は、高速なコンピューターが手元にあるわけはなく、ビットコインを入手するには、取引所などで現金と引き換える必要があります。ですから、誰もがすぐにビットコインを使いはじめることができるわけではないのです。

Vreathは、こうした問題を解決する、新しいブロックチェーンです。Vreathは、計算能力がさほど必要でない程度の計算をみんなで行います。そして早い者勝ちにするのではなく、その利益を分配することで、誰もが手軽に暗号通貨を手に入れることができるという新しい暗号通貨の仕組みです。パソコンだけでなくスマホでも暗号通貨を発掘できるため、仮想通貨を手軽にはじめられます。

仮想通貨というものは理論だけではダメで、皆が使うための動機など社会的な仕組みが必要です。言い換えると、ビットコインが流行っているのは、皆がビットコインを使ってそのビットコインに価値があると思っているからなので、Vreathが普及するにはみんながVreathを欲しがる動機が必要でしょう。ですから、今すぐビットコインにとって代わることはないと思われますが、ソフトウェア的な基本機能はほぼできており、とても興味深くおもしろい基礎研究だと思いました。

メモリーカプセル(藤本結衣)

画像1: メモリーカプセル(藤本結衣)

なんらかのメッセージを、自分がいる場所と結び付けて保存できるiPhoneアプリです。メッセージは「カプセル」と呼ばれていて、操作すると画面にスコップが表示されるなど、その場所にメッセージカプセルを埋めているようなアニメーションが表示されます。埋めたメッセージは、その場所に行かなければ取り出すことができません。また、友達同士でメッセージを埋め、みんなが揃わないと取り出せないという機能もあります。

画像2: メモリーカプセル(藤本結衣)

アプリは、GPSと連動したり複数のユーザーとデータを共有したりするなど意外と複雑なはずですが、デモではとてもうまく動いているように見えました。データの保存には、GoogleのFirebaseというサービスを使って信頼性を向上しつつ簡単にデータを保存できるようにするなど、新しい技術をうまく採り入れているところもすばらしいです(ただしFirebaseは従量課金なので、今後の商用展開を考えると、利用者が増えてきたとき、その費用をどう賄うかは課題になりそうです)。

※Firebase……Googleが提供しているモバイル開発向けプラットフォーム。

完成度が高く、観光やイベントなどでもすぐに活用できそうな印象を受けました。成果発表会では、「こんなことはできないのか」という実用前提の質問も、数多く見受けられました。このアプリはすでにApple Storeで公開されていて、試すことができます。

Sound in the forest(浪川 洪作)

画像1: Sound in the forest(浪川 洪作)

多数のスマホやタブレットを制御して、それぞれから順に音や光が流れるシステム。並べたスマホを左から順に「波の音を出す」とか「順に点灯させていく」ということができます。

言うのは簡単ですが、これを実現するのは、かなり難しいです。ズレがなく制御するには、それぞれのスマホの時刻を厳密に管理し、しかも高速にタイミングよく通信しなければならないからです。そしてスマホに設定されている時刻自体がズレている可能性もあるので、スマホの時刻は信用できません。そこでこのシステムでは、インターネットで時刻同期するときに使う「NTP」というアルゴリズムを改良したものを使って、通信速度のズレを計測して同期するという高度な技術が使われています。

成果発表会では、実際に、成果発表会参加者にスマホでデモサイトにアクセスしてもらい、アクセスしたスマホの座席の位置を把握し、その座席位置によってタイミングよく音を出すというデモが行われました。その出来には会場からも驚きの声が上がり、実用化されれば、コンサートやパフォーマンスなどで活用できそうです。

画像2: Sound in the forest(浪川 洪作)

今回の研究では16台のスマホやタブレットが使われました。こうした機材を個人で用意するのは費用も場所も難しいので、未踏の支援が大きく役立つ一例とも言えそうです。

Toubans!(西村 惟)

画像1: Toubans!(西村 惟)

掃除当番など、さまざまな当番をLINEで設定・通知するサービス。LINEを利用したのは、普及率が高かったからとのこと。LINEに最近搭載された「LIFF」いうAPI(機能)を使って作られた「LINE
Bot(ラインボット)」です。

ボット(bot)は、ロボットのように自動応答で会話するアプリのことです。どんな言葉が含まれているかを解析して、特定の語句に合致する部分があれば、それを抜き出して処理するというようにアプリを作っていくものです。最近では、宅急便がLINEで再配達を受け付けたりできるようになりましたが、それと同じ仕組みです。

画像2: Toubans!(西村 惟)

使い方が簡単なのも特徴。この「LINE Bot」を友達として登録すると使えるようになり、ある人に、たとえば「火曜日は掃除当番」などという役割を割り当てると、毎火曜日に、「掃除当番」という役割が通知されるようになります。通知さえ見れば、自分がどの当番だったのかがすぐにわかる仕組みです。

広い世界を知ることができる未踏ジュニア

今回取材をして感じたのは、未踏ジュニアは、「クリエーターの集まるよき場所」になっているということです。それぞれの学校に「プログラミングできる子」なんて、そうそういません。そうした子どもたちが、未踏ジュニアというプロジェクト、そして合宿などを通じて同じプログラミングをしている子どもたちと出会うことができるのは、とても大事な機会だと思います。

未踏ジュニアは研究成果の善し悪しが計れるだけでなく、参加するだけでもとても学ぶことが多いプロジェクトと言えます。プログラミングはしているけれども、学校にわかる人や先生もいない。そんな環境の子どもたちにとって、未踏ジュニアはプログラミングの扉を大きく開いてくれるに違いありません。

未踏ジュニアは来年も開催される予定です。自分の子どもが「なにか作りたがっている」のなら、ぜひこのプロジェクトに注目してください。

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