前回はフィンランドの学校環境についての記事を書きました。今回はフィンランドの先生たちについてお伝えします。

日本の学校の先生と違うところ

まず、学校の先生について日本と大きく違うところは「社会的地位」です。フィンランドでは医者や弁護士と並ぶ人気の職業です。それに伴い、大学の教育学部(の中の、教員養成コース)は倍率が数十倍のところもあります。将来の先生となる学生には、高い学力はもちろん面接を通して人間性・適性・モチベーションを厳しく審査されます。日本の多くの大学は、教育学部を含め筆記試験のみで合否を決めていることから考えると、フィンランドの教員養成コースの人選への強いこだわりがわかります。

画像: 「先生」は人気の職業だが、先生と子どもは対等。通常はファーストネームで呼び合う

「先生」は人気の職業だが、先生と子どもは対等。通常はファーストネームで呼び合う

先生が人気の職業である理由として、“年収が高いのでは!?”と思われるかもしれませんが、あるベテランの先生(40代後半・特別支援学級を担当しているため他の先生よりは年収が高め)で800万円程度でした。日本の小学校の教員と比較すると高めといった感じでしょうが、医者や弁護士と比較すると“低い”と言わざるを得ません。ただし、夏休み(フィンランドでは6月中旬から8月中旬までの2ヶ月)はほぼ休みであり、仕事の裁量権が大きいことも人気の職業である理由でしょう。

先生になるには大学院まで修了する必要がある

人気の職業である先生になるにはフィンランドでは大学院まで修了する必要があります。最短で5年(大学3年、大学院2年)ですが日本よりもキャリアに対する価値観が柔軟なフィンランドでは途中で留学をしたり、長期インターンをしたりと5年以上かけて教員になる資格を得る学生さんが多いようです。

ちなみに先生の中で大学院修了が必要なのは小学校以上の教員で、幼稚園や保育園の先生は必要ありません。また、フィンランドの小学校では「サブ・ティーチャー(補助の先生)」が多く活躍しており、授業中に集中しづらい子どもやフィンランド語のわからない子どもなどのサポートをしていますが、彼らも大学院を修了する必要はありません。

では、なぜフィンランドの先生たちは大学院まで修了する必要があるのでしょうか?それは、フィンランドの教育についての考え方と、それを反映しているカリキュラムにあります。教育においてフィンランドと日本の根本的に違う点を一言で表現するなら「子ども中心」。一人一人の子どもにとって有益な教育を提供することがなにより重要です。フィンランドという国民550万人の小さな国であっても「全員にとってよい教育プログラム」はないに等しいということです。

  • 住む地域……フィンランドは、南はヘルシンキやトゥルクなどの都市が多く、東はロシアに近くロシアの影響を受けています。西はスウェーデンに近く、北はラップランドがありサーミ人という独自の言語を話す民族が暮らしています。
  • 文化的背景……両親ともフィンランド人なのか、どちらかが外国人か、家族で外国から移住をしてきた移民なのかなど。
  • 性格や能力の違い

など、“フィンラドの子ども”と一括りにはできなことがわかります。

そういった個別の状況に合わせ、目の前にいる子どもが理解し、楽しみ、ポジティブになる教育をするのが“いい先生”とされています。そのためには、カリキュラムや教育プログラムを細かく設計しその通りに実行していくことではなく、“エッセンスとして設定されているカリキュラムを目の前の子どもたちのために、クリエイティブに授業を創造する”ことがフィンランドの先生には求められるのです。

カリキュラムから見る日本とフィンランドの違い

カリキュラムの観点から日本とフィンランドを比較した結果、以下のような見解をもっています。

  • 日本の学習指導要綱の方がフィンランドのカリキュラムよりも細かく書かれており、さらに日本では守るべきスケジュールや授業の実施方法がある
  • フィンランドのカリキュラムの「学習の目的」には、子どもの“気持ち”に関する記述がある。たとえば、数学の「学習の目的」のひとつに、こう書かれている “to support the pupil’s enthusiasm for and interest in mathematics and the development of his or her positive self-image and self-confidence(子どもたちが、数学に対して興味をもち、数学に関するいい自己イメージをもてるようサポートする)”
  • 全国統一の到達度テストはほとんどない

数の教え方も、先生の工夫次第

実際に、私が出会ったフィンランドの先生たちは、大きな裁量権をもって授業をしていました。数学の時間に子どもたちが課題に集中して楽しんでいれば急遽、次の時間も続けて数学の時間としたり、子どもたちが日本人である私が教室にお邪魔し、日本についての質問が絶えることなく続けば、丸一時間を「異文化理解の授業」にしたりと、子どもたちが効果的に学べるように責任をもってクラスをリードしていた姿が印象的です。

画像: フィンランドの小学校の先生の「デスク」はクラスルーム内にあることが多い。職員室に物をとりにいくなどの手間が省ける。

フィンランドの小学校の先生の「デスク」はクラスルーム内にあることが多い。職員室に物をとりにいくなどの手間が省ける。

画像: クラスルームも、先生の個性によってさまざま

クラスルームも、先生の個性によってさまざま

教員養成の大学・大学院ではなにが行われているのか

目の前の子どもたちに合わせてクリエイティブに授業を創造するためには、教員養成の大学・大学院ではどのようなことが行われているのでしょうか。そのベースとなっているシステムのひとつとして、フィンランドの教育学部にはそれぞれ付属した小学校があります。この“付属”とは、日本にある“○○大学付属小学校”のように、大学までエスカレーター式に進学するという意味ではなく、“大学の教員養成やリサーチの場となる小学校”という意味です。

日本の教育学部で必修となっている教育実習が数週間であるのに対し、フィンランドの教育実習は大学1年から大学院2年までの5年間で複数回あります。それぞれのレベルに合わせ、“子どもたちと触れ合う”という段階から、“自ら授業をプランして実行、そして振返りまた実行する”という段階まで何度も付属の小学校でトレーニングします。そこで、自分のパーソナリティが子どもたちにどの程度受け入れられるか、他の先生たちはどのように先生間の連携を取っているのか、大学の授業で学んだ理論をどう応用するのか、自分の創造した授業はどの程度効果があったのか……といったことにフォーカスをしながら先生となるための基礎を学びます。

そんなフィンランドの先生たちも、2017 年の秋から新たなカリキュラムのもと、新たな試練に立ち向かっています。これまでは、「各教科の目的に合わせて授業を創造する」というミッションが「教科横断型の授業を創造する」に進化しました。私は2017年の夏までフィンランドにいましたので、現在の教育現場については詳しくないのですが、新カリキュラム施行前の2017年夏は複数の学校で“教科横断型アクティビティのフィジビリをやろう!”と、熱帯雨林をテーマにした1日授業を開催したりと、新カリキュラムに対してポジティブな様子が見られました。

画像: ヴィジュアルアートの様子。先生は意識して「色がよいね!」などのポジティブなフィードバックをしていました

ヴィジュアルアートの様子。先生は意識して「色がよいね!」などのポジティブなフィードバックをしていました

画像: 子どもたちと、紙飛行機飛ばし。紙飛行機は工作と物理の学び。

子どもたちと、紙飛行機飛ばし。紙飛行機は工作と物理の学び。

これまでの記事

記事全文ページのみ
コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.