「子育てにやさしい国」と言われるタイ。そのタイで一番有名な芸術系学部がある「シラパコーン大学」に留学生の三吉瑠美衣さんがいるということで、彼女に話をうかがいながら、キャンパスの様子もレポートします。

タイの名門「シラパコーン大学」

シラパコーン大学(タイ語: มหาวิทยาลัยศิลปากร)はタイにある総合国立大学です。美術および考古学分野では、タイの国内で最高峰の大学として名高い学校で、1943年10月12日にイタリア生まれの美術教授シン・ピーラシーらによって創設されました。現在では5つの学部をもち、7,000人以上の学生に教育しています。

今回、日本の東京藝術大学から短期留学生としてタイに来ている三吉瑠美衣さんに、シラパコーン大学・サナームチャン宮殿キャンパスを案内してもらいました。さっそく中を見ていきましょう。

自然あふれる豊かな大学

画像: 自然豊かな大学内の桟橋

自然豊かな大学内の桟橋

シラパコーン大学のキャンパス内は緑であふれています。校舎の正面玄関入ってすぐの池にはテラピアが生息しており、桟橋がかけられていて学生がくつろいでいます。校内にいる販売員からパンを購入して(20THB)、餌付けも楽しめます。

画像: キャンパス内の池で、テラピアに餌付けできる

キャンパス内の池で、テラピアに餌付けできる

池のほとりはとても静かで、思索にふけったり、動植物をスケッチしたりするのには最適な環境。取材中、ミズオオトカゲが川のほとりにあらわれて、テラピアを仕留めて餌とする姿もありました(大変穏やかな性質の爬虫類で、タイ全域に生息しています)。

画像: キャンパスに生息するミズオオトカゲ

キャンパスに生息するミズオオトカゲ

ゆったりとしたキャンパス

画像: 校舎内の窓から眺めたキャンパス内の風景

校舎内の窓から眺めたキャンパス内の風景

キャンパス内は非常に広大です。歩いても歩いてもまだまだお目当ての芸術系学部のキャンパスにはたどり着きません。取材した日が休日だったため運休していましたが、平日のキャンパス内には、乗り合いバスも走っているようでした。学内には自家用車を走らせている人もいます。

敷地の中には寮も完備されており、まるで団地かな?という数の寮が何棟もあって、多くの学生や留学生がここで生活をともにしているということでした。校内は食事の屋台なども出ており、バンコクの街角にいるようなほのぼのとしたムードが広がります。フルーツジュースを売るお店、唐揚げや、ラープムー(タイ風豚肉のサラダ)、串焼きのお店などが軒を連ねていました。

いざ芸術系学部へ

画像: モダンな建造物の校舎

モダンな建造物の校舎

芸術学部は、Painting(絵画)、Print making(版画)、Sculpture(彫刻)、Thai art(タイ芸術)、Mixed media(ミクストメディア)、Art theory(芸術学)の6つの専攻に分かれています。

芸術学部の学生が使っている棟は大きく4つあります。左から、レクチャールーム・教官室・ギャラリー・アトリエが集まる棟、版画と絵画専攻のアトリエがある棟、絵画・タイ芸術・ミクストメディア専攻のアトリエがある棟、彫刻専攻のアトリエがある棟です。

版画専攻のアトリエにお邪魔すると、土曜日の夕方だというのに、4、5人の学生さんたちが集まっていました。それぞれ熱心に木版画を制作している最中でした。三吉さんによると、タイの木版画の技術は非常にレベルが高く精巧なのが特徴で、なかには日本の浮世絵に興味をもってその技術や歴史を学びたいと思っている教授や生徒もあり、三吉さんはじめ日本人留学生に日本文化について尋ねられることもよくあるのだとか。

アトリエ内には大判の木版画が所狭しと置かれているほか、習作でつくった作品が天井からたくさんつるされていました。

絵画専攻のアトリエ

画像: 油絵を学ぶ学生のアトリエ

油絵を学ぶ学生のアトリエ

解放感にあふれる油彩のアトリエには、大きな絵画が所狭しと置かれているほか、ところどころ天井から白い布を下げて仕切ってあったり、なかにはテントをしつらえている場所まであります。

画像: アトリエ内に置かれたテント

アトリエ内に置かれたテント

三吉さんにその理由を聞くと、芸術学部は24時間いつでも制作に打ち込めるように、アトリエ内に個人のスペースが割り当てられているのだとか。基本的に原状復帰できればどのように使ってもよく、ある人は制作中のリフレッシュコーナー兼ねた場所として、ある人は宿泊もできる場所として、思い思いのお気に入りの空間に整えて使っているということでした。

アトリエ内は清潔で、学生の皆さんは非常に礼儀正しく、お互いを尊重し合いながら共有スペースを有効活用しています。切磋琢磨し合いながら創作に打ち込んでいるたくましい様子が印象的でした。

画像: 学校内にはさまざまな動物たちも。制作をいつもの場所で見守る白猫

学校内にはさまざまな動物たちも。制作をいつもの場所で見守る白猫

タイでのキャンパスライフについて

画像: 三吉さんの制作現場兼居住空間

三吉さんの制作現場兼居住空間

一年弱の留学期間を経て、来月日本に帰国される三吉さんに、留学生活を振り返って感じたことをいくつかうかがいました。

ーー留学というと、まず言葉やコミュニケーションの壁が乗り越えられるのか、学校の勉強についていけるのかということが気になると思いますが、その辺はどうでしたか?

三吉瑠美衣(以下、三吉) 私は絵画専攻の大学院生で、しかも留学生ということもあり、学校の授業は座学よりも実習のほうが圧倒的に多かったです。教授や学生同士の学校でのコミュニケーションは主に英語でしていましたが、とにかく手を動かして作品を作る時間が圧倒的に長いので、言葉の壁を感じる暇もないくらいでした。タイ語も留学中にできた現地の学生と話したかったので、片言で少しずつ覚えていきましたが、逆にタイ語ができないと絶対単位がもらえないかというとそういうことでもないので、日常会話を楽しみながら、リラックスして少しずつ現地の言葉を身につけていった感じです。

ーータイの学生と交流する機会もけっこうあるのですね?

三吉 ええ。タイの学生は孤独に作品制作に打ち込む時間と、友人たちと集まってリラックスする時間と両方を大切にしていて、作品制作が一段落した後に学生同士で焚火を囲んで雑談しながら夕食をとることも多かったです。タイのアートシーンは日本以上にギャラリーのもっている熱量がすごく、私もたびたびレセプション・パーティーやイベントに参加したのですが、そういった場所で学生同士やインディペンデント系のアーティストが交流をもつ機会も多いですね。

ーーそういった場所では芸術論を闘わせたりもするのですか?

三吉 あると思います。でも、タイの学生は競いあったり、激しく議論することをそれほど好まない印象があります。私がタイに来て、カルチャーショックだったことのひとつでもあります。制作のタイプや方向性が違う学生同士も仲がよくて平和的なムードを保って、家族的な距離感で関わりをもとうとするところがあるんです。

お互いが違う考えをもっていることが大前提で、その上で個人の意見を最大限尊重しようという雰囲気があるように感じました。これは美大生以外のタイ人にも共通しているように感じます。タイでの生活が一年近くたった今では、それがタイの教育や風土、政治的歴史的背景などもあって、そのような雰囲気が生まれていることも理解できます。

タイというはじめての環境に飛び込んだ私にとって、日本人としての価値観をもつ私でもまるで家族のように受け入れてくれるタイの学生たちの懐の深さに何度も救われました。

ーー在学中に旅行など行きましたか?

三吉 どうせ出かけるなら地の利を生かして近隣諸国に行ってみようと思い、積極的に足を運びました。中でもミャンマーはお気に入りで、滞在費もすごく少なくて済みましたし、苦学生の私にとってはコスパもよく(笑)、普段の制作に追われる日常を離れて優雅な旅を楽しみました。

日本とは違う環境で生活する人々と出会い暮らしぶりを知ることで、自分が今までどれだけ日本社会の価値観に縛られていたか気がつきました。この体験は作家として何を軸に作品を制作していくのか考えるきっかけになったと思います。

留学すると学校の課題をこなすのが大変で、大学の外へ出向く機会が少ないという話も聞きますが、私は色々な場所に足を伸ばし、人々のリアルな生活を目の当たりにしてほしいと思っています。

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【お話をうかがった三吉瑠美衣さんの作品発表の予定】
”第68回東京藝術大学卒業・修了作品展”
2020年1月下旬開催

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シラパコーン大学の沿革

同大学の前身は、タイ王国文化省芸術局の管理下にあった「ブラニート美術学校」。設立当時は、今のキャンパスとは異なる、プラボーロマラーチャ王宮副王宮の中央宮殿、東宮殿にありました。公務員と学生を対象に学費をとらずに講義が行われていました。1934年副王宮にあった舞踊音楽学校と合併し、そのとき「シラパコーン学校」と命名されました。

1942年、学校に大きな変化がありました。当時のタイの首相、プレーク・ピブーンソンクラーム氏が「国民の意識形成のために美術は重要である」と説いたことにより、教育課程の改良、大学徽章の製作、法制の整備が行われたのです。

翌年1943年10月12日に、同学校は現在の「シラパコーン大学」として開学しました。大学では当初、絵画・彫刻学部(現:絵画・彫刻・版画学部)の1学部で、のちに分化し絵画学科、彫刻学科の2学科となり、そののちタイ建築学部、考古学部、デコラティブアート学部を設立、その後5つ目の学部である文学部を加え、今に至ります。

キャンパスは、タープラ宮殿キャンパス(วังท่าพระ)、サナームチャン宮殿キャンパス(วิทยาเขตพระราชวังสนามจันทร์)、ペッチャブリーITキャンパス(วิทยาเขตสารสนเทศเพชรบุรี)の3つを有し、それぞれの学び舎で学生が勉強や創作活動に日々研鑽を積んでいます。

本年度日本からの留学生は、東京藝術大学1名、多摩美術大学1名、愛知県立芸大1名の、合計3名。レジデンスアーティストは1名。ワークショップなどに短期で参加した学生は、多摩美術大学 約6名東京藝術大学 約5名の、合計約11名です。

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