フィンランドの学校や行政での目立った取り組みを紹介し、フィンランドが大切にしている価値観「平等であること」について、共有します。

フィンランドが大切にしている価値観

前回の記事で、

「2年ぶりに行ったフィンランドの小学校のクラスは以前よりも覇気がなく先生方も疲れており、その原因は移民の流入や先生や子どもにとって難易度の高いカリキュラムの設定である」

といった趣旨をお伝えしました。今回はそんな状況の中で、フィンランドの学校や行政での目立った取り組みを紹介し、フィンランドが大切にしている価値観をシェアしたいと思います。

価値観を共有する取り組み

フィンランドでは、20数年前からアフリカ、そしてここ数年では中東からの移民が増加しています。それに伴い、地域間に差はあるものの、移民が半数以上いるというクラスも珍しくありません。地方都市の小学校あれば、100%フィンランド人の子どもで構成されているクラスもありますが、首都ヘルシンキにおいては、必ずといっていいほど両親またはそのどちらかがフィンランド人ではないという子どもが、学年に1人以上いるといった状況です。

その場合、一番問題になるのが言語。先生や友だちの言っていることがわからない子どもは授業が理解できず、学校が楽しくありません。文化の問題もあります。日本と同じくフィンランドにも独特の生活文化やイベントがあり、それをシェアすることで一体感が生まれ、集団に所属しているという意識が生まれます。

そこである小学校のクラスでは、先生が「フィンランド語」「フィンランド文化」に力を入れると決めてクラス運営をしていました。2年生のクラス(日本の小学校でいうと3年生になる年齢)で、先生が「今日は何の日?」「今日のスケジュールは?」といった基本的なことをゆっくりと質問し、フィンランド語があまりわからない子どもにも回答のチャンスをあげます。

またフィンランドには、5月1日に“Vappu(バップ:労働者の日、そして夏の訪れを祝う日)”というイベントがあり、私が小学校に訪問したのはその直後だったので、Vappuについてかなり時間を掛けて話をしていました。Vappuのためのジュースやドーナツがあるのですが、Vappuがどんな日なのか、また写真を見せながら「このジュースはなに?」「このドーナツは?」と一つ一つ先生が問いかけ、知っている子どもが知らない子どもに教える様子が印象的でした。

「お母さんを学校へ!」プロジェクト

家族でフィンランドに移住した場合、子どもは学校へ行き、お父さんは仕事を見つけるため外に出ます。そして、家にはお母さんが一人残され、社会から孤立するといったことがフィンランドの社会問題になっています。

学校にも職場にも行かないので、フィンランド語と触れる機会がほとんどありません。また多くの場合、彼女たちは英語を使うこともできません。こうした社会に馴染めない「お母さん」たちの社会参加を目的としているのが「お母さんを学校へ!」プロジェクトです。

※このプロジェクトはフィンランドの小学校で知り、”Mother schooling project”と伺っていたので私の独断で邦題をつけました。

まず、行政(市レベル)が主体となって社会から孤立していると思われる女性にアプローチをし、プロジェクトへの参加を促します。参加を決めた女性は、1年間小学校1、2年生のクラスに参加をします※。

そこで簡単なフィンランド語やフィンランド文化を子どもたちと一緒に学び、その後に保育と介護の職業学校※※で学び、職を得るといった流れです。このプロジェクトによって、イラクから来て17年間フィンランドに住んでいるものの、ほとんどフィンランド語を話せなかった女性が高齢者福祉施設で働いている、という事例もあるそうです。

※自分の子どもと一緒に授業を受けることもあるそうです。
※※フィンランドの職業学校の分類では、保育と介護が一緒になっています。

子どもたちの非認知能力をいかに育むか

この2つの事例から私が伝えたかったのは、フィンランドの「平等」に対する強いこだわりです。前者の小学2年生のクラス担任の先生は、ほぼすべての子どもがクラスに参加をするためにフィンランド語とフィンランド文化に力を入れ、一方で「教科学習の充実」を諦めました。もちろん公教育である以上はカリキュラムがあるので一定以上のレベルは保持しますが、いいクラスをつくるためには、アカデミックの充実よりも取り残される子どもを出さないことに重点を置くと決めたのです。

それは「特別教育」においても同様で、学ぶことや集中すること、字を読むことに大きな課題をもつ子どもも、可能な限りは通常クラスで学ぶという国レベルでのインクルージョンのポリシーがあります。

※「特別クラス」はもちろんあり、学校によって、どれくらいの課題のある子どもが、どんな頻度で特別クラスで授業を受けるかは、その都度決めています。

この2-3年でそのインクルージョンの流れが強くなっています。後者の「お母さんを学校へ!」プロジェクトにおいても、ただでさえ忙しい学校の先生方が、クラスにフィンランド語のわからない女性が参加することでタスクが増えます。クラスの子どもたちとの間にトラブルが起こるリスクもあります。それでもこの「お母さんを学校へ!」プロジェクトにクラス担任として参加し、女性を受け入れた経験のある先生は懐かしそうにいろいろなお母さんのお話をしてくれました。

平等の概念は人それぞれですしフィンランドと日本では文化も国の規模も大きく違うので、日本で同様のことをすべきとは考えていません。しかし子どもの学びや自立の観点から考えると、フィンランドの“平等な”学校の子どもたちは、教科学習の範疇を超えて“簡単な”授業から学んでいるのです。「授業が簡単すぎるのは、なぜかな?」「フィンランド語がわからないお友だちのためだ、言葉がわからないのはツライよね」「フィンランド語がわからないお友だちには、どんなふうに話しかけたらいいのかな?」と考えながら他言語を学んだり、文字や言葉以外のコミュニケーション方法を習得しようとします。

また、「もっと難しい課題を解きたい」という子どもには、多くのクラスでその自由があります。みんなが同じことをしなければならないわけではないので、他の人の自由や権利を損なわないのであれば、先生にお話をして別の教材に取り組むことも、日本より簡単にできます。そんなときは、自身の能力に気づき、それを先生や周囲に伝え、ルールを守った上で自分のしたいことをするといった経験を子どもたちはしているのです。

現在、日本の多くの先生や保護者がもっているであろう「子どもたちの非認知能力をいかに育むか」といった課題へのヒントが、フィンランドの社会や小学校から得られるのではないでしょうか。

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