人と本が出会う場所。出会いは誰かの人生を変えるかもしれない。本と人に纏わるお話しをうかがいます。今回紹介するのは、千葉県佐倉市「ときわ書房志津ステーションビル店」店長の日野剛広さんです。

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業界が注目する、千葉県の総合書店

今回紹介する「ときわ書房 志津ステーションビル店」は、業界では知る人ぞ知る、注目の本屋さんです。平日は地域の人々が、そして土日には全国の書店員さんや本屋さんファンが、わざわざ訪れるといいます。

現在「ときわ書房」は、千葉県船橋市を中心に8店舗を展開しています。本以外にもCDやDVD、文具や雑貨を扱う、いわゆる「まちの本屋さん」で、開業は1965年と長い歴史もあります。一見「個性派」になりにくいはずの総合書店がなぜ、業界の注目を集め続けるのでしょうか。今回はその理由を探りに、お話しをうかがいました。

お店があるのは千葉県志津駅、駅直結。ビルにはスーパーや100均、日用品など生活に密着したお店がそろっています。毎日の買い物や、通勤の「ついで」に立ち寄ってしまいそう。

SNSで日々、情報を発信

「ときわ書房志津ステーション店」が注目される一つの理由は、SNSの発信力。日々、お店に入荷した本を「#本日の注目本」「#新刊紹介」「#最近志津で売れた本」と写真付きで説明とともに投稿しています。

日本で一年間に発売される新刊本はおよそ7万冊と、途方もない数字ですから、本当に「おもしろい本」を、私たちはいつも相当迷いながら本を選んでいるわけで。今や、誰かの「オススメ」は欠かせないポイント。それが専門家「目利き」のある選書となると、信頼性はホンモノ。

そんな日ごろの積み重ねがあるなか、2020年1月「NO WAR」特集を組んでSNSで投稿したところ、コメントが殺到しました。これには予想外の反響を受けたそう。

スタッフの関口竜平さんが書いた手書きPOPも、店内のいたるところにあり、たとえば生き方について、ヘイトについて、メッセージが書き込まれています。無造作な文字のせいなのか、なぜか直接話しかけられている声が、聞こえてくるようでした。

ワシントンでの出会い「本屋で働こうと思った」

日野店長が、本屋さんとしてスタートをきったのは、大学生にはじめた「ときわ書房本店」でのアルバイトでした。さすが根っからの本好き、と感心していると、そんなことはないと首を横に振ります。話しによると、米ワシントン州へ留学した際に、とある本屋で一冊の本に出会い、「日本に帰ったら本屋で働こう」という考えがよぎったんだそう。

そこは、ショッピングモールの中にある、変哲のない本屋さん。大学の先生に紹介されたのがシェル・シルヴァスタイン作の名作『大きな木』でした。

その後、93年に「ときわ書房」へ入社。軽い気持ちだったはずのアルバイトをはじめてから、すでに30年近いキャリアを積んでいます。

画像: 志津の本や話題の本があるなか、日野店長がイチオシの本『ブードゥー・ラウンジ』(鹿子 裕文著)と目立つパネル。

志津の本や話題の本があるなか、日野店長がイチオシの本『ブードゥー・ラウンジ』(鹿子 裕文著)と目立つパネル。

しっかりと棚をつくろう、転機は2016年ごろ

「当時、本はよく売れてた。よくもわるくも、“楽な時代”だった」と。この30年で様変わりした本屋さんのありようを思い返します。売ることをあまり考えないですんだ、というのですが、今の筆者になかなか想像もつきません。

13年間勤務した八千代店を離れ、2013年1月に現在の志津ステーションビル店へ異動。このとき、日野店長は悩んでいました。入荷した本を並べる「だけ」の反復に何をしているんだろう、と仕事へのモチベーションは低くなる一方。「世間が急速に流れていっている」空気を感じていたそうです。

転機が訪れたのは2016年。SNS開設を一つのきっかけにして、本の情報を得る機会が増えていきました。本を売ることへの刺激をうけて「もっと自由でもいいんだな。しっかり棚をつくろうと決めた」といいます。

画像: 中身がわからないさわや書店フェザン店ので話題になった「文庫X」をオマージュ

中身がわからないさわや書店フェザン店ので話題になった「文庫X」をオマージュ

「夏葉社」や「ナナロク社」といった独立系の出版社を知るにつれ、店頭にも、独自に仕入れた本を並べはじめるようになりました。総合書店で弱いジャンルとされる、人文系も。社内でも「売れるの?」と声があがったといいますが、日野店長は「お客さんを信用しないと品揃えができない。おもしろい本が読みたい、潜在的なニーズはあると信じたんです」と。

店頭に並べたイチオシと地域の人々とのギャップが埋まっていく、そんな成果を実感できたのは、ここ1年のこと。「約3年かかった」とはにかんだ笑顔が印象的でした。

画像: 「本の本」は、都内の本屋さんでも見かけないほど、かなり充実している

「本の本」は、都内の本屋さんでも見かけないほど、かなり充実している

お客さんと本屋さんが育っていく、注目される秘密を聞いたような気がしました。

地域を動かすさまざまな取り組み

地域を動かす取り組みもさまざま。書店スタッフらと今年1年のオススメを紹介する、イグ・ノーベル賞にかけた「志津・ブックノーベル賞」や、佐倉市図書館らと運営したイベント「本気(マジ)BOOKフェス」。出版社や、作家、地域の人も巻き込んでいきます。

店頭で展開する特集も、計画があるわけではなく、時事をみてスピード感を大切にしているそう。かつて「NO WAR」特集があったコーナーでは、「コロナで授業が受けられない新大学生のために」とジャンルの垣根を超えた本が並びました。

画像: ふせんを使い、お客さんもおススメの本を手書きしていく

ふせんを使い、お客さんもおススメの本を手書きしていく

コロナ禍で「緊急事態宣言」が出されて以降、客層がまた変わったと日野店長はいいます。「今はご近所のほうが足を運ぶ場所になった」。書店員をしてはじめての状況だと不安を明かすも「暗いカオでお店にはたてない」と、感染防止策を講じながら、今日も営業を続けています。

子どもたちと本のかかわり方

小学校でも休校状態が続き、ますます本との触れ合う機会が損なわれつつあります。「ぜひ、とはいえる状況ではないけれども、お店に来てもらいたい。いつでも居場所としても、想像力を養う場としても。本の価値を高めるぶん、本屋の敷居は低くありたい」。日野店長のスタイルは常に自然体で、ときに包容力を感じさせてくれます。何かに迷ったときには、日野店長のオススメに触れてみたいと思いました。

最後に、子どもたちへの推薦本をうかがいました。オスカー・ブルニフィエ著、重松清監修の『知るって、なに?』です。

こども哲学シリーズは他にも、「しあわせ」や「自由」などのテーマを扱っています。そのなかでとくに「知る」ということ、どうして?なぜ?と質問を自分に投げかけること。大人でもすっかり忘れがちの「知ったつもりになっていないだろうか」と振り返ること、考え続けることの大切さを哲学の視点から教えてくれる一冊です。

画像: 子ども目線で、手に取りやすい本棚

子ども目線で、手に取りやすい本棚

緊急事態宣言を受けて、業界への打撃も想像以上に広がっています。状況は日々、刻々と変化していきますが、少しずつでもよくなることを願ってやみません。

基本情報

ときわ書房志津ステーションビル店

  • 住所:〒285-0846 千葉県佐倉市上志津1663
  • 営業時間:9:00 - 22:00(短縮営業中)
  • 月曜 〜 土曜 10:00 - 19:00
  • 日曜・祝日 10:00 - 18:00
  • 電話:043-460-3877
  • 定休日:なし

店長オススメの一冊

  • 『知るって、なに?(こども哲学)』
    • 著者:オスカー・ブルニフィエ
    • 絵:パスカル・ルメートル
    • 監修:重松 清
    • 翻訳:西宮 かおり
    • 出版社:朝日出版社
    • 刊行年:2007年1月20日

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