前々回の記事で、障害者雇用のカフェ「60+ベーカリー&カフェ」に出かけた様子をお伝えしましたが、今回はタイ政府の障害者エンパワメント局に「OriHime」を連れて行ったときのお話をします。

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タイ政府・障害者エンパワメント局への訪問

前々回の記事に引き続き、ゼネラルパートナーズの長谷川まろさん(以下、まろさん)に同行取材したときの模様をお伝えします(取材自体は緊急事態宣言前に行っています)。

今回はいよいよ、タイ政府・APDCアジア太平洋障害者センター・障害者エンパワメント局(以下、エンパワメント局)の事務局と、「OriHime(オリヒメ)」についてお話しした内容をお届けします。事前に日本にいるまろさんから、取材申し込みを英文で入れていただいていたおかげで、スムーズにお話しをうかがうことができました(エンパワメント局の広報の方ともども感謝申し上げます)。

「OriHime」に対する反応

画像1: 「OriHime」に対する反応

まずは、普段まろさんがお仕事で使っている「OriHime」の紹介です。タイ国には初上陸かもしれません。2人いたエンパワメント局の職員の方は、実際のロボット型デバイスにとても驚いた様子。OriHimeのデモンストレーション動画も、食い入るように見入っていました。

オリィ研究所代表取締役CEOである吉藤オリィさんこと吉藤健太郎さん(以下、オリィさん)によって考案された「OriHime」は、当初パーキンソン病などで外出が困難な重度身体障害者用のために、コミュニケーションできるロボット型デバイスとして開発されました。

障害者の限られた身体機能を使って遠隔先のロボット型デバイスが操作できます。今では、仕事の協業相手とのコミュニケーションツールとしても、法人での契約が可能なほどにまで進化を遂げ、利便性も向上しています。

卓上型OriHimeは、音声機能からの情報伝達のほかに、「働く人のしぐさや身振りを再現する」という、非言語処理機能も搭載しています。テレワークをしている人が、遠隔で接客やものを運ぶなど、身体労働を伴う業務を可能にする「OriHime-D」もあり、遠隔操作で実店舗のカフェ従業員としてのお仕事を実現可能にしています。

画像2: 「OriHime」に対する反応

パーキンソン病のあるエンパワメント局の男性職員は、

タイ国でも、障害者を「エンパワメントする」ための公的機関を特別に設けています。障害者カードも数年前から実施して効果を上げ、労働を通じた地域社会への貢献は大きなキーワードです。このOriHimeは、障害者雇用の幅を広げてくれそうで、とても興味深いですね!

と話していました。また、同局の自閉症スペクトラムのある女性職員は、敷地内の障害者が働くベーカリーカフェ営業のことにも触れながら、

茶運び型のOriHimeはおもしろい。身体障害者がカフェで遠隔で働いているなんて驚きました。まさにエンパワメント。

と話し、タイ政府が経営する「60+ベーカリー&カフェ」に、OriHimeが働く未来を実装しましょうと、話は尽きることがありませんでした。

日本の仕事現場で活躍するOriHimeの紹介

画像: 日本の仕事現場で活躍するOriHimeの紹介

OriHimeを実際に日本の仕事現場で使用しているまろさんからは、

「OriHimeはオンラインでのデスクワークの仕事効率化にとても役立ちます。働く現場は、単に情報の伝達だけではなく、日々働く人が抱く心の機微、チームのメンバーに対する気遣いや結束力の確認などさまざまな要素が有機的につながり合っています。OriHimeがパフォーマンスを向上するのに役立っていることを日々実感しています。まさに私たちをエンパワメントするためのツールです」

と紹介していました。一説によると、人が視角野で処理する情報量は、言語野で処理する情報を凌駕するとも言われています。テレワークが増えてきた中、「Zoom疲れ」などでこのことを実感し、どうしたら解消するのかと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

聴覚や肢体に身体的障害のある車いすユーザーのまろさんは、会社通勤と在宅勤務、そして取材先への訪問など、さまざまな場所で仕事をしています。在宅勤務の際、OriHimeを会社の会議室においてもらい、まろさんの音声やしぐさをロボット型デバイスから出力して、会議をすることもあるそうです。

また、まろさんの在宅勤務先に、今回タイにもってきたデバイスを置いて、同じく身体に障害のある仕事メンバーと情報の共有やミーティングをすることもあるそうです。

OriHimeは「仕事の効率化」と「福祉的な役割」両面をつなぐ、まさにエンパワメントツールです。働くことは生活の糧を得るということのほかに、本人や周りの人の生きる支えとしても大きな意味をもっているということはいうまでもないでしょう。私たちは国境を越えて「エンパワメント」というキーワードからOriHimeのすばらしさについて対話できたのです。

障害者エンパワメント局構内の様子

画像1: 障害者エンパワメント局構内の様子

エンパワメント局は公的機関ですが、入り口には、前々回の記事でお伝えした民間企業と協業で出店しているカフェがあります。敷地内には役所機関のほかに、障害者カードを申請したり諸手続きを行うための事務所、授産施設でつくられたグッズを販売するショップなどが立ち並びます。

障害者カードの申請事務所には、平日の日中にもたくさんの利用者が訪れていました。ほとんどが親子や家族連れで、整理番号をもらったのち、複数人の相談員に相談に乗ってもらっていました。筆者らが訪れた際は、5組ほどの利用者が順番を待っていた様子。

画像2: 障害者エンパワメント局構内の様子

授産施設でつくられたグッズを販売するショップは充実の品揃えです。そしてこちらのショップを取り仕切る職員さんも大変ていねいです。私たちのたどたどしい英語での質問に対して、10倍以上熱がこもった対応で、いろいろと教えてくださいました。

職員から説明を聞いて、いくつか商品を購入しました。どれもクオリティーは一級品であることは間違いないですが、実はお値段も一級品! とくにスカーフやシャツなどの衣料品はかなりこだわってつくられており、売価も巷のショッピングモールやデパートの既製品を購入するのと、あまり変わらない値段で売られています。

こういったグッズの品質を担保するのは並大抵の苦労ではないはず。エキゾチックな商品を目の前にして、まろさんのアートディレクターとしての目もピカリと光ります。何か密かにアイデアが閃いた様子。

画像3: 障害者エンパワメント局構内の様子

これを読んでいる方も、授産施設のグッズを購入する際、一度や二度くらいは「可哀想だから」とか「チャリティだから」という考えのもと、投げ売りされる商品を買ったことがあると思います。そういった罪悪感を抱く余地は、このショップには一切ありません。

前回の記事でお伝えした通り、タイでは賃金の格差を無くすことによって、障害者と健常者の格差を是正しようようという取り組みがなされています。商品の値段ひとつとってもタイ政府の肝いりの施設であることをうかがい知ることができるのです。

「格差を見直す仕組み」を発信するということ

画像: 「格差を見直す仕組み」を発信するということ

「搾取」「買いたたき」ー一昔前の東南アジアの商品やサービスに対してこういったイメージをもっている人も多いのではないでしょうか? もちろん今でもそこかしこにあります。一方的に搾取が生み出した商品を消費することには、どこかしら罪悪感もうまれます。日本人がタイで暮らすと、日々澱のようにそれらがたまることも事実です。

先進国(だと自認している)私たち日本人が、「発展途上国」で生活するにおいては、こういった労働生産と消費の構造的な問題は避けて通れません。ジェンダー(社会的差異)は、自分たちが完全にマウントをとっている側です。もちろん発展途上国の人々からもそのように見られています。日々、筆者はマダムと呼ばれ、住まいのドアは「自分の手を一切使わずに手動」で開けてもらうのですから。

ある意味、日本の暮らしとは異なるジェンダーで暮らすことは、大人たちにとってはどこか予定調和の有り余る贅沢であり、ある意味形而上の思考実験「優越感ゲーム」です。しかし文字通り、「発展途上」の子どもにとっては、日常を形づくる原風景であり、今ここにある全世界のルールです。暮らしの中で、大人たちが前提としているジェンダーは、不動のものとして映っているでしょう。

世界を広げる「対話」のすばらしさ

画像: 世界を広げる「対話」のすばらしさ

日々、格差をはっきりと体感する社会で暮らすことに対してはこうしていろいろ思うことはあります。ただ、今まであまり言葉にまとまりませんでした。

今ようやく気づいたことは、ジェンダー格差を乗り越えて、「対話」は可能なんだということ。それを最大限大切にして、折に触れて発信していくこと。そこでようやく、日本と異なるジェンダーで暮らすと決めた価値も見出せるのだと思います。大人とか子どもとか関係なく、究極的にはどんな国のどんな立場の人にとっても、そのジェンダーの垣根を超えた発信は、世界の人々にとっての想像と創造の糧になるものだと、筆者は信じています。

OriHimeはまさに、そんな「対話」のすばらしさを実感させてくれるツールです。ギュッと思想が詰め込まれているこの機械に触れられたことに感謝しつつ、まろさんの大切なその「相棒」を鞄にていねいにしまい、現場を後にしました。

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