今回の記事では、先日放送され、私がプログラミングで制作に関わったテレビ番組についてお話しします。プログラミングでテレビ番組をつくるというと、あまりイメージが浮かばないかもしれませんが、その過程を紹介することで、プログラミングでできることの本質が垣間見えるかもしれません。

ビッグデータを8Kで可視化 新型コロナウイルス感染爆発

画像1: 3D visualization of the global COVID-19 outbreak vimeo.com

3D visualization of the global COVID-19 outbreak

vimeo.com

※この映像は制作過程で私が検証目的でつくったもので、本編の映像とは異なります。

番組の趣旨

この番組は、8Kならではの高精細な表現力を生かして、ビッグデータを可視化し、専門家の分析にもとづいて今後の対策に向けた糸口を探ることを意図して制作されました。

ご存知のとおり、新型コロナウイルスの影響は現代社会の根幹をも揺るがし、政治や経済を混乱させ、私たちの日常生活をも一変させました。その対策が急がれるなかで、国内外を問わず、ウイルスに関するさまざまなデータが集められています。

番組では、世界で確認されたウイルスの遺伝情報と、国内での感染状況の2つのテーマに注目して、データを詳細にビジュアル化し、感染の実体を描き出しました。プロジェクトには、取材や映像制作を担う番組スタッフだけでなく、ウイルスや都市環境の専門家などが参画しています。

ウイルス遺伝情報から感染ルートを可視化する

私は、主に番組の前半、ウイルスの遺伝情報に着目した場面での制作に関わりました。

ウイルスが増殖する際に、設計図であるRNAに刻まれた遺伝情報が複製されますが、ごく稀にオリジナルとは異なる情報が書き込まれる場合があります。これがウイルスの変異です。

世界中で確認されたウイルスの遺伝情報の変異を調べると、まるで家系図のようなウイルスの伝播ルートを知ることができます。

画像: 2次元的なウイルスの系統樹 出典: https://www.gisaid.org/

2次元的なウイルスの系統樹 出典:https://www.gisaid.org/

番組ではこれらのビッグデータを使って、ウイルスの広がり方を詳細かつ鮮明に表現することを目指しました。冒頭の映像は、完成した3次元的な新型コロナウイルスの系統樹です。

映像化のイメージを検討するためのプログラミング

ウイルスが拡散する様子をこのように高精細な表現で映像化する取組みは、過去に例がありません。そのプロセスは、どのようなものだったのでしょうか。

この場面を描くにあたってチームでは、まず「ウイルスの変異のビッグデータと位置情報を組み合わせて3次元的に描く」という基本的なアイデアが出され、それをもとに手描きのスケッチでイメージを膨らませました。

画像: 最初のミーティングでの筆者のスケッチ

最初のミーティングでの筆者のスケッチ

しかし、データからイメージ通りの表現ができるかどうかはまだわかりません。このような複雑なビッグデータの場合、スケッチやディスカッションだけで議論するには限界があります。

私はデザイナーとして、番組の中心となるであろうこのビジュアライズのデザインとアートディレクションという、重要な役目を負っていました。そこで、データを可視化したビジュアルを自由にカスタマイズできるシステムを開発し、チームのメンバーが自由に操作することで、アイデアや科学的な確からしさを吟味し、それを頼りに具体的な議論ができるようにしました。

プログラミングによるメリット

システムを開発したことによるメリットは大きなものがありました。遺伝子の変異が現れた場所は、プライバシーの問題もあり、明確に特定できません。そのため、どの程度明示するかについて複数のパターンで検証する必要がありましたが、それが可能になりました。また、8Kならではの複雑な部分での繊細な表現と、わかりやすさのバランスを取るため、系統樹の束ね方やカーブの方向などについても、システムを開発したことで、検討を重ねることができました。

実際の感染拡大の経路に矛盾していないかについては、ウイルスの専門家による検証も行われました。そして、その都度プログラムを改良して意見を取り入れ、ビジュアルは完成へと近づいていきました。

画像: 初期の可視化。系統が複雑すぎてよくわからない

初期の可視化。系統が複雑すぎてよくわからない

画像: 主要な系統や特徴的な部分を線の太さや色で表現し検証している様子

主要な系統や特徴的な部分を線の太さや色で表現し検証している様子

画像: 系統を表す線を、直線と曲線で検証している様子

系統を表す線を、直線と曲線で検証している様子

異なる専門分野をひとつにするプログラミング

このようにして検討を重ねた結果のデザインが、最終的に放送される8Kの映像を出力するシステムを担当するエンジニアに引き継がれ、ひとつの番組として完成しました。8Kという超高解像度の映像がもたらす圧倒的なビジュアルと、それを力強く裏付ける専門家の分析が結実し、史上空前の感染拡大の様子がビッグデータをもとに明らかにされたのです。

ここで、プログラミングが果たした役割を俯瞰してみると、もうひとつ気づくことがあります。プログラミングによって高精細なビジュアルをつくることはできましたが、それは分野の異なる専門家同士が密度の高い議論をできたことの証であり、プログラミングだけの力ではありません。プログラミングは、このように、大きくて複雑な問題を徐々に解きほぐしながら、周りの人々の知恵や経験を活かし、つなぐ「ノリ」のような役割を果たすのです。

プログラミングで築くよりよい未来のために

昨年12月から始まったっこの連載は、今回が最後となります。お付き合いくださりありがとうございました。締め括りに当たって伝えたいのは次のことです。

まず、本連載の最初の記事にもあるとおり、技術者だけでは社会はよくならないということです。プログラミングを学ぶことは、ロボットやAIなど、社会を大きく変えると思われる革新的な技術の先端を牽引するような人材になるために必要不可欠ですし、それを目指して学ぶのはすばらしいことです。

しかし、そうではない人にもプログラミングは必要です。このプロジェクトでも紹介したとおり、ほとんどの仕事はさまざまな分野のスペシャリストが知恵を出し合い、よいコミュニケーションのものとでなされるものです。

これから社会のさまざまな課題を解決しようとする場合、情報技術を使わないことは考えられません。ですから、プログラミングに秀でた人は、一人だけで作り上げるのではなく、さまざまなスペシャリストの声に耳を傾け、具体的な成果物に導くための翻訳者や案内役としての役割も期待されます。

プログラミングを学ぼうとする方には、技術以外のたくさんの物事や他者の意見に関心をもち、自分がもつ技術がどのような場面で生きるのかについて、広く視野をもって考えてほしいと思います。

<番組詳細情報>

「ビッグデータを8Kで可視化 新型コロナ感染爆発」(BS8K)
「ビッグデータで読み解く 新型コロナウイルス感染爆発」(BS4K)

制作:NHK
NHK エデュケーショナル健康科学部(企画・制作)
東海大学医学部 基礎医学系分子生命科学 中川 草講師(アドバイザー)
東北大学 大学院環境科学研究科 中谷友樹教授(アドバイザー)
山辺真幸(データ分析・データビジュアライズデザイン・システム開発)
NHKメディア開発企画センター・株式会社カシカ(放送用システム開発)

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