STEM教育は、日本だけでなく、世界中で注目されている教育です。では世界はSTEM教育についてどのような動きをしているのでしょうか。以前からSTEM教育を実践してきたCANVASの理事長である石戸奈々子さんが、世界のSTEM教育事情に迫ります。

STEM教育の米国の動き

画像: STEM教育の米国の動き

ここで世界の動きを簡単に見ておきたいと思います。STEMの動きを先導したのは米国です。STEMという言葉は、戦後間もなく設立され早くから科学教育の充実に取り組んできた国立科学財団(NSF)から生まれたとされています。

当初はSMETと言われ、1990年代から科学リテラシー教育の底上げを目的に注目されていましたが、2001年に呼称をSTEMに変更。オバマ大統領以降、STEMとしてさらに注目を集めることとなります。

2009年4月オバマ大統領就任間もないころ、米国科学アカデミーの演説の中で、STEM教育の重要性を強調しました。そして、「革新への教育」キャンペーンがスタートすることとなります。

米国の国内総生産は17兆ドルを誇り、2位以下を大きく引き離した経済大国として君臨しています。また、科学技術大国とも言えます。自然科学系ノーベル賞受賞者のうち43%は米国が占めることもそれを示しています。オバマ政権は、今後も経済・科学技術大国として世界を牽引し続けるため、イノベーション戦略の一環でSTEM教育強化に重点を置いたのです。

米国がSTEM教育を推進する理由がいくつかあります。まず、STEM人材不足です。米国教育省の調査では2010年から2020年の間にSTEM関連職業が産業全体で14%増加することが見込まれていることを示しています。それら労働人口予測とSTEM分野の学位取得者推移を踏まえ、STEM分野の学位取得者数が100万人不足すると予測されています。

さらには、2012年に実施されたOECD生徒の学習到達度調査(PISA) において、米国の順位がOECD加盟国33カ国のうち、数学的リテラシーが27位、科学的リテラシーが20位と下位に留まっていることもあげられます。

2013年にはSTEM教育5カ年計画を発表し、2020年までに初等・中等教育の優れたSTEM分野の教師を10万人養成、今後10年間でSTEM分野の大学卒業生を100万人増加等の具体的な目標を示し、年間30億ドルの予算を投じました。

さらに2015年にはSTEM教育法が成立。STEM教育の定義を拡張し、コンピューターサイエンスを含めることを明示しました。公式に定義に含めたことはコンピューターサイエンス教育の重要性を示唆しているといえるでしょう。また、ミュージアムや放課後プログラムなど社会教育の中でのSTEM教育も重視されています。

その後、STEM教育にアートやデザインを統合することの議論も高まりました。つまりSTEMからSTEAMに変えようというわけです。2013年に、MITメディアラボ副所長、ロードアイランド・スクール・オブ・デザイン学長を歴任したジョン・マエダが「STEMからSTEAMへ」を提唱してきたことが影響を与えています。

STEM教育のEUの動き

画像: STEM教育のEUの動き

STEM教育を国家戦略とする動きは、米国のみならず世界中に広がりました。EUもまた、1990年代からEU全体レベルの科学教育の底上げを推進してきました。大学におけるSTEM関連分野の専攻や、STEM関連職の選択を奨励することを目的にSTEMアクションプランが立てられています。

EUにおけるSTEMプラットフォームであるEU STEM Coalitionを創設し、各国のSTEM教育のベストプラクティスの共有や産官学連携による加盟国のSTEM戦略構築の支援を行っています。

2004年、イギリス政府は「科学とイノベーションの関する投資フレームワーク2004-2014」を打ち出し、STEM教育に関する具体的目標を示す10カ年計画を示しました。きっかけとなったのは、2002年に発表された「ロバーツ・レビュー」です。同報告書では、理数系の履修者数の減少を指摘するとともに、それに関する教育および労働市場における課題について分析されています。

2006年に作成されたSTEMプログラムレポートの中で、STEM推進組織が必要とされ、政策遂行の一環としてSTEMNETが立ち上がりました。STEMNETでは、学校と連携しながらSTEM教育に関する動機づけを行うことを目的に、STEM関連情報の発信、STEMクラブネットの支援、STEMアンバサダーの任命などを行い、全国的なSTEM教育推進を担っています。

STEM教育のアジアの動き

画像: STEM教育のアジアの動き

動きはアジアでも同様です。中国では、革新的な人材および高度技術者の不足が中国の経済構造改革のボトルネックになっているという認識から、政府教育部がSTEM教育について2015年にはじめて言及し、2016年には「教育信息化第13回5カ年計画」で科目横断学習(STEM教育)を促進する方針を正式に発表。経済産業省の資料によると、2017年「義務教育小学校科学課程標準」改訂にあたって、STEM教育の実践を義務局課程内に盛り込むことが決定したといいます。

上海ではSTEMに留まらない他分野連携の教育を「STEM+」と表現。「STEM+」教育研究センターを設立し、10年計画の実証研究プロジェクトに取り組んでいるそうです。深センでは、モノづくりに特化したSTEM教育としての創客教育を実施しています。そして、中国はAIの教育利用を国家戦略に据えています。

シンガポールでは、1965年独立以降、理数教育に力を入れてきました。シンガポールのSTEM教育は、シンガポール最大の科学館であるサイエンスセンターが中心になって推進しています。サイエンスセンターは、シンガポール政府の協力のもと、中学校のすべての生徒たちにSTEMプログラムを提供するための組織「STEM Inc.」を2014年に立ち上げました。

そして小学校にもSTEM教育を試験的に導入する学校も出てきているといいます。シンガポールでは1997年に提起された「思考する学校、学ぶ国家」によって知識中心の学習から思考力の育成へと転換が図られ、探究型学習が推進されています。文部科学省の報告書によると、STEM教育においても教科ごとの縦割り学習ではなく、体験型学習が重視されており、社会全体での使われ方に即したカテゴリーの中で学習することになっているそうです。

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どの国の政策にも共通しているのは、STEM関連産業が、今後の国際競争力、経済的繁栄に密接であるという考え方です。そしてまたSTEM産業の発展を見越したSTEM人材の育成が重要であるという認識も一致しているのです。

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