フィンランドには、日本の「道徳」のような「倫理」という科目があります。それはどのような内容なのでしょうか。フィンランドスタイルの保育/教育を実践するアフタースクール「KIDS PORT Fin」代表の高野直子氏が読み解きます。

人生を豊かにする「倫理」の4つのカテゴリー

今回は、フィンランドの小学校1、2年生のカリキュラムの中の一つである“ethics(倫理)”の具体的内容について書きますが、他の教科同様、日本の小学校で教えられている「道徳」とは役割も目的も少し違っています。どんな点が違うのか、ご自身の小学校時代やお子さまの小学校での取り組みと比較しながら読んでみてください。

ethics(倫理)は4つのカテゴリーに分かれます。(C=Contents 1-4 )

C1: 「よい人生とは?」について考える(Reflecting on good life)

The pupils practise their conversation skills by learning to respectfully listen to others and by practising clear self-expression.

まずは自分のことを相手に伝え、相手のことも敬意をもって聞くという練習をします。その上で物事の「よい・悪い・正しい」の区別をつけることを学び、「友達関係はなぜ、人生に必要なのか?」を考えます。

C2: “一人一人違う人生や生活”があるということを学ぶ(Different ways of life)

The pupils reflect on the question “Who am I?” and on different ways of living and thinking.

「自分はいったい誰なんだろう?」という問いからはじまり、さまざまな生き方や考え方があることを学びます。身近な家族や地域の人にも自分とは異なった考え方や生活をしている人を見つけることができます。

彼らを「違う」と切り捨てるのではなく「種々ある中のひとつ」として捉えるような視野を育みます。

C3: コミュニティというものを学ぶ(Foundation of communal life)

The pupils learn about the foundations of communal life by reflecting on, for instance, the meanings of rules, trust, honesty, and fairness in different everyday situations and environments.

フィンランドの子どもたちは、自分の考えや感情、欲求を大切にすることを学びますが、同時にコミュニティの一員であることも、学びの中で重視されています。日々の生活の中で「なぜルールがあるのか」「正直さとはどんなことか」「平等とはなにか」などを学びます。

C4: 自然の中の一員としての、倫理(Nature and sustainable life)

The pupils explore different forms of life on Earth, reflecting on the finite nature of life

私たちは社会やコミュニティの一員であると同時に、限られた資源/不変ではない環境の中の一員でもあります。自分たちの行動や意思決定が資源や環境にどう影響を及ぼすのかを考えられるようになることも、倫理の大切な学びのひとつなのです。

画像: 小学校1年生のクラスの先生いわく「1年生では授業や学級活動の多くを“倫理”や“社会生活”にフォーカスしてきました。(算数や国語の授業中でも、倫理の学びを実践していた)その結果、学年の終わりにはクラスがとても落ち着いてきて子どもたちが各教科において、よく学ぶようになりました」

小学校1年生のクラスの先生いわく「1年生では授業や学級活動の多くを“倫理”や“社会生活”にフォーカスしてきました。(算数や国語の授業中でも、倫理の学びを実践していた)その結果、学年の終わりにはクラスがとても落ち着いてきて子どもたちが各教科において、よく学ぶようになりました」

「学びの狙い」と「スキル」の関係

次に、学びのカテゴリーC1-C4が12あるObjectives(学びの狙い)、そしてT1~T7(Transversal Competencies:教科を横断する子どもたちが身につけるべきスキル・能力)とどう関連しているのかを表でお伝えします。

T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
T5. ICTを活用する能力
T6. 自分の仕事をもって自立していく能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル

※T1-T7は、国語・算数……などのすべての教科に共通しています。

学びの狙い学びの内容教科横断のスキル・能力
O1.お友だちの意見や考えを聴くことができるようサポートするC1〜C4T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
O2.自分の意見や感情をさまざまな手段で伝えられるように導くC2T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
O3. 自分自身・そして他者の考えを大切にすることを学ぶC1T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
O4. 疑問があれば質問をしたり、正しいと思った意見を表明する能力を育むC1〜C4T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
O5. 日常の中での物事の因果関係を倫理的観点から考える ということを学ぶC1〜C4T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
O6. 「よい/悪い」「正しい/正しくない」の違いを自分で感じ理解できるようサポートをするC1〜C4T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
O7. 身近にある“自分とは違った生活習慣や考えをもつ人たち”に目を向け理解することをサポートするC2T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
O8. コミュニティの中で生活するということの基本を学ぶC1〜C4T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
O9. 自分たちが享受している自然環境の価値を知り、大切にすることを学ぶC4T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
T5. ICTを活用する能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル

子どもが理解しやすいようにする2つの事例

倫理がテーマとしていることは、「社会」「よい/悪い」「友情」など形にして子どもに見て理解してもらうのが難しいのですが、子どもが理解しやすいように形にしている事例を2つ紹介します。いずれもフィンランドの民間団体がウェブサイトに掲載しているもので、学校の先生も適宜授業で使ったりもできます。

1つ目は、「友情(friendship)」について子どもが感覚で理解することを狙いとした教材です。

出典:Värinautit

「友情」と関連するキーワードをアルファベット順に配置した教材です。(フィンランドは、複数の学びを結びつけることが得意な国だと考えているのですが、この教材では倫理と英語のアルファベットを同時に学べます!)

ここですべての訳をすることはできませんが、“互いに助け合う”“理解をしあう”“心地よいもの”“QRコードを一緒にやってみる!”などユーモアを交えながら、現代を生きる子どもたちが身近に感じられるワードが書かれています。

もう1つは、「感情」を歯車に例え、ネガティブな感情をもってもいい、すべてが調和をもって自分の中に存在して、感情のおかげで人生が豊かになるということを子どもに伝えるポスターです。

出典:Mental Health Finland

感情の歯車は「こわい気持ち」「悲しい気持ち」「楽しい気持ち」「怒りの気持ち」「驚き」「愛の気持ち」に分かれており、その感情に関連する“気持ち”が周辺に書かれています。

たとえば、一番下に描かれているのは「怒りの気持ち」なのですが、その周りには“怒る”“人を羨ましいと思う”“嫌な刺激を受ける”“欲求不満”“屈辱”などのワードが書かれています。自分の感じた気持ちがどのカテゴリーに分類されるのかを、子どもたちはポスターを見て分類し、やがて気持ちを受け入れて対処法を学ぶことにつながっていきます。

次回は、フィンランドの小学校で学ぶ「音楽」について日本との違いにフォーカスを当てながら書く予定です。

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