“教科書を使わない”“小さいうちからPCを使う” グローバルな人材育成で注目を集める「国際バカロレア」とは

KIS International School(以下KIS)は、バンコク日本人学校があるフワイクワーンエリアに位置するインター校で、授業カリキュラムはIB(国際バカロレア機構、以下「IBプログラム」)を採用しています。従来の「詰め込み型の教育」とは真逆の、ユニークな内容のIBプログラムですが、実際にバンコクで学んでいる生徒や親御さんたちはどんな様子なのでしょうか。スクールツアーに参加し、入学説明担当者のJubさんと一緒に校内を回りました。

国際的な教育プログラム

グローバルな人材育成の観点から注目が集まる「IBプログラム」。バンコクにあるインター校の中でもアメリカンスクール、ブリティッシュスクールと並んで、いくつかのIBプログラムの学校があります。

日本でも2013年に閣議決定された「日本再興戦略」に基づき、導入が始まっています。日本のIBプログラム採用校は年々増え、幼稚園から大学までを合わせて現在79校(2020年3月)となっています。

IBプログラムは、スイスに本部を置く国際バカロレア機構が提供する国際的な教育プログラムです。国際的な視野をもった人材を育成するために作られており、年齢に応じて次の3つのプログラムから形成されています。

  1. PYP(プライマリーイヤーズプログラム 3~12歳)
    精神と身体の両方を発達させることを重視したプログラム。どのような言語でも提供可能です。
  2. MYP(ミドルイヤーズプログラム 11~16歳)
    これまでの学習と社会のつながりを学ばせるプログラム。どのような言語でも提供可能です。
  3. DP(ディプロマプログラム 16~19歳)
    所定のプログラムを2年間履修し、最終試験を経て所定の成績を収めると、国際的に認められる大学入試資格が取得可能です。原則として、英語、フランス語、スペイン語で提供しています。

IBプログラムの使命とは?

ワシントンDCを模したデザインの校舎

IBプログラムが使命として掲げている内容は「多様な文化の理解と尊敬の精神を通じて、よりよい、より平和な世界を築くことに貢献する、探求心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的とする」です。

それでは、この使命を果たすためにいったいどんな人が、IBプログラムを勉強する生徒の存在なのでしょうか。理想像としては下記10項目あります。「探求する人」「知識のある人」「考える人」「コミュニケーションができる人」「信念をもつ人」「心を開く人」「思いやりのある人」「挑戦する人」「バランスの取れた人」「振り返りができる人」です。

IBプログラムについては、国際バカロレア機構を始め、日本の文部科学省のホームページでも紹介されているので、ぜひそちらも参考にしてください。

IBプログラムの目指すものは抽象的で概念的です。公式ホームページを一通りみても、現在の日本の教育制度上はロールモデルさえない道なき道感もあり、教育移住まで視野に入れて積極的に子どもの進学を考えている親御さんにとっても「伸るか反るか判断がつかない」という方もいるでしょう。

筆者にとってもそれはまったく同じでしたが、KiSに足を運んで、なるほど……と思うことが2つありました。

生徒と先生が自由に関わりあう図書館

PrachauthitUthit通りを入ったところに位置する

1つ目に驚いたこと。IBプログラムは低学年では「教科書さえも使わない」「小さいうちからPCを使わせる」など事前に聞いていたため、正直どんな「勉強」をしているのかとても気になっていました。しかし、授業の一コマを拝見して、筆者の諸々の懸念点はまったくの杞憂ということがわかりました。

図書館では、すべての生徒がそれぞれ自分のテーマに従って学習を進めている姿がありました。読んでいる本は同じではなく、ディスカッションが必要な問題に取り組んでいる子どもは図書館で話す姿も見られ、生徒によっては話の輪には加わらず黙々と普通に本を読んでいる子もいれば、書籍ではなくボードゲームをやっているチームもいます。

バラバラですが、統率は取れているので、クラス全体の命題のようなものはあらかじめ決められているような印象をもちました。

そのあたりをJubさんに聞くと、「IBプログラムの10個ある生徒像を目指して、生徒たちも自分がどのことに留意して学習に取り組んでいるかを事前にアセスメントシートを使って先生とも共有しつつすすめています」とのことでした。

知識のインプットとアウトプットはいつどんなときでも必要なので、たとえ図書館であっても有効な議論であれば話していいというルールになっているそうです。見学している間は誰一人度を越えた私語をする生徒もいなくて、とても規律のとれた”大人っぽい”雰囲気だったのが印象的でした。

いつでもどこでも学びを。IBシステムが生涯学習までも視野に入れたカリキュラムであることにも納得できます。

IBプログラムを理解するための面談室

2つ目に驚き、感心したのはIBプログラムに対する「親の理解を促す工夫」です。IBプログラムは、たしかに世界に通用する人材を育成する総合的なプログラムなのですが、その複雑性から内容等をすべて理解するのはなかなか難しいのが現状です。

いわゆる詰め込み型、旧来型の教育システムで学習したことしかない親御さんであればとくに、子どもたちに毎日「勉強」する内容さえもはっきりしていない、教科書がない、となると評価軸が客観視できず、目に見える形で手ごたえがないので面食らってしまうはずです。正直に言って、自分が育ってきた教育環境とまったく違うところに子どもを入れるとなると、家族にとってもコペルニクス的な価値転換に近いです。

子どもが毎日、「自由」に議論し表現することに重きを置いているIBプログラムのもと、勉強をはじめれば、親に対する態度や評価もおのずと相対的になり、時に厳しいものになるだろうことは想像に難くないはずです。

そういった子どもとの議論や会話が、本人の本質的な気づきによる真摯な態度だとわかっていながらも、大人のキャパシティーはそれほど広くはありません。心の受け皿を見失ってしまうと「うちの子生意気だな」「わけのわからないことばかり話しかけないで」と、うっかり子どもの前で口に出してしまうこともあるような気がします。

きっと、多くの「詰め込み教育」を受けてきた親御さんが、頭の中ではIBシステムは子どもにとっていいとわかっていても、本当に親が丸ごと理解して学校でやっていることをすべて肯定できるまでには非常に時間がかかるはずです。

どんなときも“親のコーチ”と話そう

海外移住者に限らずインター校生の親にとってツライのは、子どもをインター校にいれたものの、親御さん自身が自分の語学力に少し自信がない、子どもの育ちに関する大人同士の会話の経験が少ない、そもそも家族以外の大人と外国語で何を話したらいいかわからない、など語学やコミュニケーション上の不安定要素が多いパターンです。段取りだけ上手に進めて子どもをインター校に入れても、これでは学校との距離も子どもとの信頼関係も次第に遠くなってしまいます。

そんな悲惨な海外移住インター校生活にならないために、もしそういった可能性があるならできる限り「親自身のコーチングをしてくれる」ところを選ぶ方がいいでしょう。

KiSのいいところは、親のための面談室を設けられていて、子育てに対する不安や、IBシステムへの理解度に関して、積極的に教師と話し合える時間と場所が確保されているということです。見学した当日も、一人の親御さんがオンラインで先生と話しているのを、廊下からの窓越しに確認できました。

親も、子どもが通っている学校で自ら学びを得る。子どもと一緒に学習の喜びを称えあう。海外移住生活にそういった理想を叶えたいのならば、IBプログラムの学校はとても適していると思います。

日本にも、ペアレントトレーニングという「親業」を訓練するものがありますが、それと少し似ています。「自分のわからないこと」にふたをせず、子どもの学習をきっかけに親が学びを得ることによって、生涯、自分自身の価値を創造し、高めあっていきましょう。