フィンランドで国語・数学の次に大切な「Environmental studies」は人間としてのベースになる学び

フィンランドの小学校1、2年生のカリキュラムの中で、国語、数学に続く主要な教科とされる「Environmental studies」(直訳すると環境学)ですが、今回はより具体的に狙いや学ぶ内容について踏み込んでいきます。

6つのカテゴリーに分かれるEnvironmental Studiesの学び

Environmental Studiesの学びは6つのカテゴリーに分かれます。(C=Contents 1-6 )

C1: 発達と成長について(Growth and Development)

人間の身体のさまざまな部分の機能、ライフステージ、そして自分自身の年齢に合った発達について学ぶと同時に、自分の感情を知りコントロールするスキル、心身をよい状態に保つスキル、自分自身と他者を尊重することを身につけます。

C2: 自分自身で意識して“やってみる”こと(Acting at home and at school)

まずは身の回りを“安全性”の観点から、考えてみること。どうしたら交通事故に遭わずに移動ができるか、快適に過ごすためにはどんな服装を選べばよいのか。そのための知識を学ぶことも必要になります(自動車の性質<テクノロジー>・交通<社会>・自分の住むエリアの気候<地理>)。

また、一人の人間として“自分の心と身体がつながっている感覚”、自分を大切にしいじめに際した場合などに周囲に助けを求めることのできるスキル”、グループの一員として周囲と協力するスキルを養います。

C3: 自分の身のまわりを意識して観察すること(Observing the surroundings and their changes)

子どもの身の回りには、自然のものや人工のものなど、たくさんのものがあります。季節ごとの周囲の植物や生き物の変化を観察し その特徴をとらえるところから始まります。また、植物や生き物を取り巻く環境として“気候”という概念にも触れます。家や学校の周りを”yard map”として描き、地図という概念を獲得する練習をします。

C4: リサーチの練習をする(Exploring and experimenting)

学びのスケールと深さを増していくために、子どもたちは小さな“リサーチ”課題に取り組みます。テーマは、そのクラスの先生や学校のあるエリアによりますが 対象は自然や人工のもの、日々の現象、テクノロジー、人間、そして人間の行動についてなど、幅広い中から選ぶことができます。

物事をリサーチを通してフラットに視ることで、日常で起こる問題に対しても落ちついて、解決策や代案をたてることができるようになると考えられています。

C5: 生きていくために必要なものを知る(Reflecting on the basic necessities of life)

生きていくために必要なもの、食べ物や飲み物、シェルター、基礎的なセルフケアなどについて学びます。そしてそれぞれがどのように自分たちのもとにくるのか、どのようにして得ることができるのかを学びます。また、健康を維持するための日々の習慣について、どのようにして幸せな、あるいはうれしい気持ちになるのかといったことも大切な学びです。

C6: 持続可能な生き方/生活について( Practicing a sustainable way of living)

持続可能な社会と、持続可能な個人としての生き方をつなげて考えます。まずは、自分自身や自分のものと周囲と共有するものを大切にする方法を学びます。そしてゴミの分別や削減方法などをはじめとして、自分の行動によって自分の周り(家庭や学校、地域)がよりよい状態にすることを練習します。

「学びの狙い」と「スキル」の関係

次に、学びのカテゴリーC1-C4が12あるObjectives(学びの狙い)、そしてT1~T7(Transversal Competencies:教科を横断する子どもたちが身につけるべきスキル・能力)とどう関連しているのかを表でお伝えします。

  • T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
  • T2. 自分がもつ文化を大切に思い、それを表現する能力
  • T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
  • T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
  • T5. ICTを活用する能力
  • T6. 自分の仕事をもって自立していく能力
  • T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
    ※T1-T7は、国語・算数などのすべての教科で共通です。
学びの狙い 学びの内容 教科横断のスキル・能力
Significance, values, and attitudes(Environmental Studiesと向き合う基本的スタンス)
O1. 子どもたちが自然に抱く周囲に対しての興味を満たす機会を創り、子どもたちにとって“意味ある”こととしてenvironmental studies で取り扱うトピックが体験できるようサポートをする C1: 発達と成長について(Growth and Development)
C2: 自分自身で意識して“やってみる”こと(Acting at home and at school)
C3: 自分の身のまわりを意識して観察すること(Observing the surroundings and their changes)
C4: リサーチの練習をする(Exploring and experimenting)
C5: 生きていくために必要なものを知る(Reflecting on the basic necessities of life)
C6: 持続可能な生き方/生活について( Practicing a sustainable way of living)
O2. 子どもたちがenvironmental studies を楽しみ、自分の能力を大切にし日々起こる困難なことへ立ち向かえるよう励ます 同上(C1~C6) T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T6. 自分の仕事をもって自立していく能力
O3. 子どもたちの周囲への意識を高め、周囲の環境や学校というコミュニティの中でサスティナブルに行動できるようサポートする 同上(C1~C6) T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
Research and Working skills(リサーチや物事への取り組みスキル)
O4. 子どもたちが周囲を観察し、その中でアクションを起こせるよう 遠足を計画するなどのサポートをする C2: 自分自身で意識して“やってみる”こと(Acting at home and at school)
C3: 自分の身のまわりを意識して観察すること(Observing the surroundings and their changes)
C4: リサーチの練習をする(Exploring and experimenting)
C6: 持続可能な生き方/生活について( Practicing a sustainable way of living)
T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
O5. 子どもたちがリサーチや、その他のグループワークの中で何かを疑問に思い・質問をし・建設的な議論ができるよう導く C1〜C6 T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T7. 持続可能な社会の一員としての自覚とスキル
O6. 子どもたちが、自分たちの周囲について小規模のリサーチをし その結果をさまざまな手法で発表するサポートをする C1〜C6 T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
O7. 子どもたちが周囲にあるさまざまなもの(生き物・自然現象・社会現象・物質)の名前を知り、説明・比較・分類ができるように導く C1〜C6 T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
O8. 子どもたちが、さまざまな状況の中で安全を意識し、ルールの背景にあるものを理解し守ることができるよう導く C1〜C6 T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
O9. 子どもたちが、周囲にあるさまざまなテクノロジーに触れることで、実験・発明・ものづくり・そして他の子どもと協力して新しいことしたいと思えるよう、インスパイアする C2: 自分自身で意識して“やってみる”こと(Acting at home and at school)
C4: リサーチの練習をする(Exploring and experimenting)
C6: 持続可能な生き方/生活について( Practicing a sustainable way of living)
T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
O10. 子どもたちが、「物事へ興味を持って集中するスキル」「自分の感情を知りコントロールするスキル」を身につけ、それによって自分自身や他者を尊重できるよう導く C1〜C6 T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力
O11. 情報収集や、プレゼンテーションの段階でICTを使うことができるようサポートをする C1〜C6 T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
T5. ICTを活用する能力
Knowledge and understanding(environmental studies の知識・理解)
O12.子どもたちが、周囲の環境・人間の活動についてenvironmental studiesで学んだ知識を使って分析できるよう導く
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C1〜C6 T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
O13. 子どもたちの生活に関連する簡単な写真・図式・地図について理解できるよう導く C1〜C6 T1. 自分で考え学ぶことのできる能力
T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
O14. 子どもたちが、自己表現をしたり自分の視点が正しいと思えるよう励ます C1〜C6 T2. 自分がもつ文化を大切に思い それを表現する能力
T4. 多様な状況やメディアにおける言語表現と親しみ、使い分ける能力
O15.子どもたちが、生きていくため・成長するため・よい状態でいるために必要なことをいつも心に留めておけるよう導く C1: 発達と成長について(Growth and Development)
C5: 生きていくために必要なものを知る(Reflecting on the basic necessities of life)
T3. 自尊心をもち、自立した生活をする能力

上の表をみると、ほとんどすべてのLearning Objectives(学びの狙い)が、すべてのLearning Contents(C1-C6)と関連していることがわかります。自分の身体と心、発達と成長、周囲の安全と人々との協力、環境への配慮など人間としてのベースとなる部分の学びにフォーカスを当てています。

そのため、Environmental Studiesの年度末の評価は他の教科と比較すると先生にとって難しいものとなっているようですが、評価については下記のように定められています。

評価は、その子どもの“周囲に対する意識や行動の変化・観察力の変化・安全に対する意識と行動の変化・グループワークでの意識と行動の変化”によってするようにと定められ、子ども個人の個人的な能力・性格や気性・身体的特徴・生活習慣を評価するものであってはいけないと明記されています。

(例:毎日歯磨きをする健康な子どもと、歯磨きをする習慣のない子どもを比較して後者に低い評価をすることはしない。歯磨きを週に1度しかしなかった子どもが、週に2〜3回歯磨きをするようになったらそのことをポジティブに評価する。)

次回も引き続き、フィンランドの小学校のカリキュラムについて実例を交えて書いていきます。

【コラム】フィンランドの新型コロナウイルス対策・秋編

フィンランドでも、新型コロナウイルス感染者数が秋が深まるにつれて増加傾向にありますが、引き続き可能な限りのテレワークをしながらソーシャルディスタンスを保ちながら(フィンランド人は、もともと他のヨーロッパ諸国と比較をすると人と人との距離が遠めです)日常を過ごしているようです。

学校や保育園などの教育現場では、コロナ対策はしつつも子どもたちができるだけ「普通の」「いつも通りの」学びや日常を過ごせるように配慮する傾向にあるようです。たとえば小学校のランチタイムでは多くの場合でカフェテリアに子どもたちが集まり昼食をとるのですが、学年やクラスごとの「時間差」対策をしつつも「おしゃべり禁止」はしない など。

感染は怖いですし、子どもたちを守るために各種対策の徹底はとても大切だと思う一方で 一度しかない子ども時代にどこまで制限を設けるべきかを考えさせられます。