【インタビュー】「生徒から生き方を学ぶこともたくさんある」ーバンコクで22年間働く日本人教師が語る“真のグローバル人材を育てる環境”とは【海外×教育移住】

海外移住というと、仕事のためにというパターンが多いかと思いますが、教育のためにあえて海外に行くという選択肢もあると思います。ここでは海外に教育移住するための情報をお届けします。第一回はタイ・バンコクで家庭教師をしている安藤忠浩さんへのインタビュー。

生徒から学ぶことばかり。バンコクで家庭教師をして気づいたこと

「バンコクで教えている子どもたちは基本的に本当に優秀な生徒ばかり。私が教えることなんて本当にちょっとした勉強のコツくらいなもので。みんな人間がしっかりしているからもう、日々彼らから学ぶことしかないんです」

冒頭、日本流の謙遜で真摯なあいさつではじまった安藤忠浩さんのインタビュー。安藤さんはタイ在住歴20年以上、バンコク市内で家庭教師業などを幅広く展開し、在タイの小中高校生向けに勉強法の相談に乗ったり、英語をはじめとする教科を生徒に教えたりしています。主にバンコク市内のインターナショナルスクールの受験合格を目指す生徒を対象に、家庭教師をこなしている日々。

教師歴数十年ともなると、生徒が世界各国で活躍する姿を目の当たりにする機会もあるのだそう。彼らが仕事や家庭をもったのち、こぞって安藤さんにお礼の連絡をくれるのだそうです。最近では公私ともに付き合いのある教え子も増え、彼らとの交流が何より嬉しいことなのだとか。

そんな安藤さんが、どんな思いで長年ここバンコクの地でお仕事をされているのか?また昨今のインターナショナルスクールの受験に対する日本人の動向などを交えつつ、お話をうかがいました。

自分自身の力で生きていくために、兄弟で目指した「海外移住」

— 在タイ25年目とのことですが、海外在住歴は長いのでしょうか?

安藤忠浩(以下、安藤) 私はイギリス、ブラジル、そしてタイの近隣国ラオスにもいたことがあります。もう30年以上海外で生活しています。ビジネスをいちばん長く続けているのはタイですね。

— 元々海外志向は強かったのでしょうか?

安藤 たまたまですが、私の弟も海外在住歴35年と長く、兄弟そろって外国で暮らしています。きっかけはいろいろあるのですが、自分自身の技術や能力で未来を切り開いていきたいという思いは、ぼくも弟も共通してもっていました。その夢をふたりで温め合い、ともに成長してきたというところは大きいでしょうね。

私たちが子どものころは高度成長期の真っただ中。ある日、終電で疲れ切ったサラリーマンが電車に揺られて帰宅するという光景を目にしたんです。子どもながらにショックが大きかったですね。一生これを死ぬまでやり続けるのが人生か?自分たちはけっしてそうなりたくない!という思いでいっぱいでした。

「サラリーマンだけにはなりたくない」と必至だった

— お若く見えますが、安藤さんはバブル世代だったのですね。

安藤 そうなんです。ぼくたち兄弟は「どうすれば会社に使われるだけのサラリーマンにならなくてもよいのだろうか」ということを必死で考えました。自分たちが何かしらの能力を身につけ、それが通用するフィールドを世界規模にまで広げるためには、英語が必須ツールになる。とにかく今はそれを勉強しなくてはという結論に達して、あとはもうひたすら勉強する毎日でした。50歳を超えた今でも、英語は一日1時間勉強しています。

— 50歳を超えても、仕事以外の時間を確保してコンスタントに勉強し続けるのは凄いですね。

安藤 英語に関してはとにかく積み重ねなので、毎日やっていくことが大切。年齢も関係ないですよ。私は40歳を過ぎてからWebサイトも自分で制作して、バンコクの家庭教師のホームページとしては上位に上がってくるように工夫も重ねて設計しています。コンピューター言語を学んで当ホームページを作ったりできるようになったのなんてつい最近の話です。

もちろん、ビジネスとして成功したいという気持ちがあったからこそ必死で言語を学びましたが、それ以前に英語を学んで実際の生きていく糧を得るツールとして人生に生かせた経験があるからこそ、コンピューター言語の学びにおいても、同じ語学学習なのだからという気持ちでやってこれました。結果、短期間で習得することができたんです。

— 英語やコンピューター言語のほかに、他言語をお仕事で使われていますか?

安藤 ポルトガル語で仕事をしていた時期も長かったですね。ポルトガル語はブラジルをはじめ南米各国でも多く話されている言語ですし、日本にもブラジル人の外国人労働者をはじめ母国語がポルトガル語であるひとたちが多くいるのですが、大学の第二外国語で学ぶ機会のある学生にとってはとにかくマイナーな存在であることに間違いはないです。

しかし私は高校生のとき、すでに将来ビジネスツールとして使える能力を携えるなら、他の人がもっていない力を蓄えて生かしていかないと、決して世界規模のビジネスシーンでは勝てないというビジョンをもっていたので、日本ではマイナーな言語をあえて学生時代に学びました。結果的に、私のポルトガル語は南米で生きていくことに役立ちました。バンコクに来る20年ほど前は、ブラジルで日系の企業が多く参入する時期だったので、その通訳のような仕事に長く携わることができたのです。

素人の自分が聞いても、意味がわからなくてはダメ

素人の自分が聞いても、意味がわからなくてはダメ

— 翻訳の仕事を辞めてタイに移られたのはどんな経緯ですか?

安藤 契機としてはタイでソフトウェアの販売をしている友人の会社の営業を手伝うという仕事があったからなのですが、それ以前に通訳や翻訳という仕事が自分が本来やりたい仕事なんだろうかという疑問が生じていた時期でもあったからです。他人の作った仕事の内容をただ右から左に自分の考えをとくに挟まず伝えるだけの仕事というのに、本質的な意味での価値を徐々に見いだせなくなってしまったのです。

通訳の仕事は正直に言うとけっこうおいしい仕事ではあったのですが、思いきってすっぱりやめて新しい仕事をする決断をしました。

— タイでは当初、営業マンとして働いていたのですね。

安藤 そうなんです。仕事に誘ってくれた友人はソフトウェアを作って販売しているエンジニア兼経営者でした。しかしびっくりするくらい売るのが下手で(笑)、売り上げが全然上がっていなかった。当時の従業員に支払われていた金額を聞くと安すぎて気の毒になるような額です。

そこで私はそのソフトウェアがどういう仕組みで作られているのかについて社長に訊ねたんです。でも素人の自分が聞いても、意味がわかるような説明はされなかった。これではダメだと思いました。そこからはもういつもの通り、気が済むまで勉強です。他にはないものであるとお客様に認められて、はじめて価値も生まれます。結果的にその会社のビジネスは、私が関わってから右肩上がりになりました。

同時にバンコクという場所で何かやるという決心もついて、それでようやく自分で開業して家庭教師をすることに至りました。”グローバルな視点で他にはないユニークなサービスを提供する”という軸でビジネス考えたときに、バンコクで日本人向けにインターナショナルスクール受験の家庭教師をしている人はほとんどいないので、これはいけるという確信を得たのです。すぐにホームページを立ち上げて集客しました。お陰様で今の仕事は順調に続いています。

日本の英語教育では太刀打ちできない

— 安藤さんがバンコクで家庭教師として教えている生徒はどのような子どもたちですか?

安藤 私が主に教えているのは、いわゆるインターナショナルスクール(以下インター校)に入学したいと考える子どもたち向けの勉強です。インター校は英語を日常言語として話すほか、使われているテキストもすべて英語の書籍なので、英語で読み書きができなければ基本的に入学することはできません。その語学レベルは日本で学べる英語とはまったくレベルが異なります。小学6年生で英検の2級必要ですから、相当高度な英語学習が必須となります。

また、受験や入学に際しては日本の大学生並みの学費がかかりますので、親御さんはそれを支払えるだけの収入が必要ですし、はっきりいって日本人にとって海外インター校への進学は未だかなりのエリート教育です。バンコクも駐在員や現地採用で高収入の家庭が増えてきていますが、日本で暮らす一般の家庭に向けて、タイのインター校受験専門の家庭教師である私の仕事の切り口からオーソライズできるような内容はそれほどありません。

さまざまなハードルを乗り越え、私の元に集う生徒たちはみなモチベーションが高く、情熱をもって自分の人生を切り開いていくんだという思いにあふれているため、冒頭お伝えしたように、日々生徒たちから逆に人生を学ぶことばかりです。

軽はずみな質問でもいいから、どんどん聞いてほしい

— 教えている生徒は、ここ20年余りの間で変化はありましたか?

安藤 ここ20年あまりの間の変化といえば、生徒の質が向上したことが特筆すべきことではありますが、インター校の受験に際しリテラシーの低い親御さんからの問い合わせも増えてきていることは事実です。しかし、私は自分自身も社会人となってからはいろんな人に迷惑もかけ、愚かな質問も投げかけてここまで歩みを進めてこられました。軽はずみな質問であってもいいんです。どんどん聞いてほしい。私との出会いで何か能動的に勉強や仕事をやって、社会で生き抜いていくことの大切さに気付いてもらえたらもうそれで十分です。

私は今、犬や猫たちに囲まれ、自分自身やりがいのある仕事にも出会い、年相応に蓄えも作ることができ、こうして異国の地で生活できています。もういろんな恩を返していってもいい時期なんだろうと思うことも増えてきているんです。

— 安藤さんのホームページには詳しく勉強法が書いてあったり、とても正直なスタンスで各生徒や親御さんに向けたメッセージが書かれてありますね。また、タイ国内のインター校のレポートについても詳細に書かれてあり、更新も頻繁に行われていますね。

安藤 はい。私はなにもかも正直に事実をお伝えするのが、自分の仕事だと思ってやっています。本人にやる気はあるけど家にお金がないとか、そういった境遇の人にとって役に立つ情報があれば社会的な意義は大きいと思って、知っていることはすべて書いています。インター校の受験に際して、レベルアップを図りたいなら、時間を無駄にしないことが何より大切です。

受験とは、そのひとの人生を決める大切な節目でもあります。そこに全力投球するためには、とにかく正直に情報を発信している人とつながって、無駄なことをしないための努力が必要です。そのために親御さんは細心の注意を払って塾や家庭教師を見極める必要がある。成功するためには、とにかく愚直なほどに正直な教師を選ぶことが一番大切なことだと思っています。

大事なのは大人たちが仕事を楽しんでやっていく姿を見せていくこと

大事なのは大人たちが仕事を楽しんでやっていく姿を見せていくこと

— 安藤さんのご経験も踏まえ、今後グローバル人材が育つ環境とはどのようなところだと思いますか?

安藤 私自身のことでいうと、英語を勉強し、大人になってからITに関する学びを得たことによって仕事のフィールドを海外にもつことができ、自分が子どものときに思い描いた理想の大人の姿に近づくことができました。家庭環境を海外に持つ親御さんであれば、ご自身の能力や才能を大きな世界に解き放って活躍しているわけなので、子ども達へ見せる姿も一歩先を進んでいるといえるでしょうね。その方たちにとって、子どものインター校への受験はグローバル人材が育つ環境を整えるためのひとつの大きなチャレンジとなるでしょう。

海外で暮らす場合、日本で暮らす場合の両方で共通して言えることは、大人たちがどんな環境であっても自分が生きていくための能力と技術の向上を怠ることなく、仕事を楽しんでやっていく姿を見せていくことです。そのことが未来を担う今の子どもたちにとっては特に大切になってきます。そのようなマインドがしっかりとした大人たちの活気にあふれている環境こそ、真のグローバル人材を育てる場所になりうるはずですしね。