プログラミング教育はどこへ向かうのか

2年間に渡る連載も今回が最終回です。これまでの記事では、プログラミング教育についてさまざまな視点から紹介してきました。今回は、全22本の記事の内容を振り返りつつ、プログラミング教育がこれから向かう先について考えてみたいと思います。

プログラミング教育ってなんだ

連載が始まった2年前は、1年後にプログラミング教育がすべての小学校で始まることが決まり、準備期間の真っ只中というタイミングでした。まずは、プログラミング教育が目指す目的について紹介したのがこちらの記事です。

この記事のポイントは、「プログラミング教育」と「エンジニア教育」を分けて考えようという問題提起です。どちらが重要というわけではなく、TPOに即した形で求められる教育の在り方がことなるということをまずは認識しなければ、プログラミング教育について議論をすることはできません。

また、「プログラミング的思考」を「構造を捉えて細分化し、再構築すること」と言い換えて紹介しています。後に「プログラミング的思考」にこだわりすぎた実践についても紹介し、あらためてプログラミング教育には「創造性」の視点が大切だと紹介しました。

また、具体的に小学校で行われる授業については、このあたりの記事で紹介しています。

小学校で子どもたちが学ぶ内容を決めている学習指導要領では、5年生の算数と6年生の理科、総合的な学習の時間での取り組みの3つが例示されています。個人的にはこれら3つは最低限押さえるべき内容だと考えています。とくに算数と理科についてはとっつきやすい学習内容なので、どの学校でも確実に取り組んでもらいたいと思っています。

しかし、学習内容がわかったとしても実際に授業となると難しく思われてしまう先生もいるでしょう。これは、教師がわかっていることしか子どもに教えられないと思っているからではないでしょうか。しかし、プログラミングやコンピュータについては、往々にして教師より子どものほうが理解していたり、早く上達するものです。このあたりを踏まえた上で、私が実際に授業をするときに子どもたちと約束していることについても記事に書きました。

先生がプログラミングを楽しむことの大切さを私自身が実感して書いた記事もあります。この学校の研修会は本当にこれまでと違った空気感がありました。先生方自身が目の前のよくわからない(と思われている)プログラミングに真摯に向き合おうとされているのがとても伝わってきましたし、何よりおもしろいと思ったことをそのまま表現されているのが本当に素晴らしかったです。

学校外でプログラミングを学ぶ場所

私は現在でも子どものためのプログラミング道場 CoderDojo を地元である千葉県柏市で開催しています。学校ではないからこそできることがあると思い、これまで8年ほど開催し続けてきたわけですが、その経験から得られたこともいくつか記事にしました。

現在は新型コロナウイルスの影響で対面開催を見送っているものの、オンラインでプログラミングを学ぶ取り組みを1年近く続けてきました。このあたりも CoderDojo という私にとっての実践の場があったからこそ生まれた記事たちです。

また、このあたりの記事はプログラミングスクールなどで教えられている方だけでなく、ご家庭でプログラミングに取り組まれようとされている方にも役立つかもしれません。

いわゆる教えるときの心構えから、そもそもプログラミングを教えることはできるのかという挑戦的な内容まで多岐に渡っています。プログラミング教育関連の記事の多くは学校で扱う内容やハウツー関連のものが多いですが、これからはこのようなプログラミング教育を通して見る教育や学びについても考えていくべきでしょう。このような記事が書けたのは、2年間という長い時間があったからだと思います。

連載開始当時と比べても、現在は教育用プログラミングツールが巷に溢れかえっています。しかし、その中でも個人的に決定版だと思うのが MITメディアラボが開発した Scratch です。Scratch の良さについては連載初期に紹介しました。

学校やプログラミングスクールでも Scratch がたくさん使われていますが、年々子どもたちのレベルが上がっていることを感じます。それはもちろん Scratch のコミュニティページを見たり子ども向けコンテストの結果を見てもわかりますが、レベルを上げている1つの要因は Scratch でできることの幅がどんどん広がっていることも関係していると思います。たとえば、機械学習を Scratch でやることは2021年現在、もはやそこまで特別なことではなくなっています。これから先も Scratch は1つのエコシステムとして発展をしていくのだろうと思います。

最後にまとまりきらなかった分はぜひ一覧から御覧ください。これから先生になろうとしている大学生のためのプログラミング教育学習プロジェクトや、コロナ禍におけるプログラミングの学び方など、本当にたくさんの視点から書かせていただきました。

プログラミング教育の向かう先

さて、最後にプログラミング教育の向かう先について、未来に目を向けてみたいと思います。私はこの連載で一環して、子どもたちの創造性を大切にする教育が大切であると主張してきました。今でもその思いは変わりません。

しかし、現状を見てみると理想像とは程遠いプログラミング教育が行われているのも事実です。創造性とは、計画の外に生まれるものであって徹底的に管理された授業からは決して生まれるものではありません。

私はよく先生方の研修会で「子どもたちが創造性を発揮するための余白」を大切にした授業をデザインしようと言っています。「余白」と「空白」は似て非なるものです。余白はあくまでも「余り」なのです。もちろん子どもたちが思うがままに創造的活動をするのもいいですが、日本の学校の授業ではまだまだ難しいところがあります。(そもそも”授業”という時間的・空間的に制限された環境が前提ということもあります)だからこその「余白」です。

たとえば5年生の算数、正多角形の作図の単元で、正多角形を描くことを目的にするのではまったくおもしろみがありません。子どもたちは正方形や正三角形、正五角形と作図していくなかでルール(法則)を見つけどんな正多角形でも描けるようになるわけです。次はその法則を使って自由に模様を描いたりしてほしいですし、その活動こそが創造性が育まれる余白と言えるわけです。

創造性を軽視したプログラミング教育の行き着く先に待つのは、プログラミングが嫌いな子どもが増える未来でしょう。(厳密に言えば、”学校における”プログラミング嫌い)これまでの歴史を振り返っても、強制的に教えてよかったことなんてほとんどないでしょう。この問題を解決するためには、自分たち自身が創造的に学ぶとはどういうことか、しっかりと考えることしかありません。

プログラミング教育がすべての小学校で実施されることが決まったときには、まだ1人1台コンピュータ整備事業(GIGAスクール構想)は決まっていませんでした。また、新型コロナウイルス感染症という私たちの社会を一変させる驚異が迫っているとは夢にも思っていませんでしたし、それによって学校が休校になり、(一部の学校で)オンライン授業が当たり前になるなんてこともなかったわけです。

私たちの未来予測なんてものはほとんど役に立ちません。しかし、1つだけ確かな方法があります。パーソナル・コンピュータの父と呼ばれるアラン・ケイの有名な言葉をご存知でしょうか。

The best way to predict the future is to invent it.
未来を予測する確実な方法は、その未来を創ることである

なにがいいかはその人次第で決めればいい、未来を創るのは私たちです。私たち自身の手で創造的な学び・プログラミング教育を考えて作っていきましょう。今日まで書いてきた23本の記事が少しでも皆さんが未来を創るお役に立てたならば、そして、皆さんが作る道の先のどこかで実際にお会いできたら、これほどうれしいことはありません。

私はこれからも、微力ながらそのために活動し続けていこうと思っています。最後までご覧いただきありがとうございました。