大事なのは「失敗すること」。名古屋市立天白小学校の「ロボットカーを使ったプログラミング授業」からわかったこと

2020年からはじまる小学校のプログラミング教育の必修化を見据えて、いくつかのモデル校では、すでにそれに向けたプログラミング授業を実験的にはじめています。ここでは、中でも名古屋市にある天白小学校が昨年11月に行った「ロボットカーを使ったプログラミング授業」を通して、現状のプログラミング教育の課題と可能性について見てみます。

名古屋市が推奨する新しい学びのカタチ「なかまなビジョン」

「プログラミング教育」の話をする前に、まずは名古屋市が取り組んでいる「なかまなビジョン」について紹介しましょう。

「なかまなビジョン」は、子どもが積極的に授業に関わって、「なかま」と対話し、主体的に「まなび」、「ビジョン」をもった授業を通して深く学べるようにと考えられた、名古屋市が推奨する授業改善プログラムです。具体的には、授業の冒頭にこの授業の目標をつかませ、そこから一人一人の考えを引き出し、その引き出した考えをもとに仲間と話し合い、最終的にまとめて振り返ることで、この授業の目標を達成させます。

今回、天白小学校で行われた「ロボットカーを使ったプログラミング授業」は、もちろん「プログラミング教育」に向けた授業ではあるのですが、同時にこの「なかまなビジョン」の授業の一環でもありました。

ロボットカーをスタートからゴールへ。それだけでも実は難しい

今回天白小学校で行われた授業は、アーテック社から提供されたロボットカーに、本メディアでも紹介しているScratchを使ってスタートからゴールまでの操作をプログラミングするというものでした。といっても、単にゴールを目指すのではなく、途中トイレットペーパーの芯でつくられた柱の外側を曲がり、その先に置いてあるコップを一定の位置まで押し込んでからゴールをする、というものです。

子どもたちはとくに、この「コップを押し込む」というプログラムに苦戦しているようでした。押しすぎてもいけないし、押し足りなくてもいけない。その微妙な調整に手間取っていたようです。

チームは男女混合で、各チーム3名。ロボットカー1台とパソコンが2台与えられていたので、考える人1名とプログラムを担当する人2名というチーム構成が多かったように思えます。

授業の最後には、それぞれのチームがロボットカーを走らせ、皆でそれを見ながらどうすればよかったのかをお互いアドバイスしていました。

どの先生でもプログラミング授業はできるのか? 野崎教諭にインタビュー

公開授業の終了後、今回この授業を担当した教務主任の野崎(崎は立つ崎)崇司先生に、今回の授業と、これからはじまるプログラミング教育について聞いてみました。

ーー今日はお疲れさまでした。見たところ、この授業の前にすでに何回か授業をやって、今回が最終回というような位置付けだったようですが、実際はどのくらい行われたのでしょうか?

野崎 実際は1単元、5時間の授業になります。チーム決めからはじまり、Scratchなどの使い方も含めると、そのくらいはかかりますね。

ーー今回の授業ではロボットカーを使ったプログラミングという方法でしたが、この方式を選んだ理由はどこにあるのでしょうか。

野崎 そもそもこの取り組みは、名古屋市が推進している「なかまなビジョン」の授業のひとつとして私が応募するところからはじまりました。その際に、民間の企業でやっている授業内容を学校用にアレンジして導入できないかと思って、実際にそういった授業をしているグローバルキャストさんに相談したんです。そのときに出てきたのが、このロボットカーだったんですね。私も実際その授業を見にいったんですけど、そのときはマンツーマンの指導だったのでこれを学校用に、複数の人にも教えられるようなテキストを用意したり、プログラムを変えたりなど、いろいろ工夫をして今回の授業に至りました。

ーーロボットカーにはアーテックさんのものが使われていますが、これを教材として選んだ理由はなんですか。

野崎 今回このような授業をはじめるにあたって、学年ごとにできるできないがあるので、それに合わせた授業を考える必要がありました。なので、まずは今回のパートナーであるグローバルキャストさんに、1、2年生はこういうことがやりたい、3、4年生はこいうことをというのを相談して、その流れで5、6年生はロボットを動かしたいとなり、出てきたのがアーテックさんのロボットだった、というわけです。

ーーとは言え、ロボットカーを動かすのって難しいと思うんです。たとえば今回のロボットにもDCモーターとサーボモーターがありますよね。この車が動く仕組みとかはどうやって説明したのですか。

野崎 一応、1時間だけこのロボットカーについて説明する時間はとったのですが、今回の授業で大事なのは、車の動きの仕組みを知るということよりも、実際に自分でプログラミングを組んで動かすことにあると思っているんです。だから、仕組みはわからなくても、プログラムを試行錯誤しているうちになんとなくロボットカーが動いちゃった、その感覚が大事だと思っているんですね。私としては車の動きの仕組みを知るのはその次かな、って思っています。

ーー授業の内容についてもう少し詳しく聞きたいのですけど、今回の授業の中で印象に残ったのは、「ゴールできれば、そのプログラムの内容は自由でいい」という部分でした。

野崎 大事なのは、決められたとおりにできるかということではなく、実際にやってみて失敗して、なにが原因で失敗したのかを考えることだと思うのです。失敗してもそこからリトライする、その行動が大切なのです。

ーーそれは実際にプログラミングする上でも重要なところだと思いますが、とは言え、それによって落ちこぼれなどが出る可能性はないのですか。

野崎 そこも誤解があると思うのですが、授業では完成することだけで評価はしていません。むしろその過程を重要視しています。実際今回の授業は、1時間目は構造を説明し、2時間目で行って帰ってきてのゴール、3時間目でグルッと回ってゴール、4時間目でモノを押してからのゴール、で今回の授業なので、結局は積み重ねなんですよ。だから2時間目でうまくいかなくっても、3時間目で取り戻せばいいんです。

ーー今回見ていて、とてもスムーズに授業が進んでいて驚いたのですけど、他のどんな先生でもスムーズに授業ができそうなものでしょうか。

野崎 もちろん、目指すところは他の先生でもやれるようにというところなんですけども、たとえば学習指導要領だけ渡されて、なにもないところからはじめようとしても、それは難しいと思います。今回のように、ある程度教材と指導計画があって、それに付随して実際の授業の様子とかがわかるビデオテープとかがあれば、ひょっとしたらできるかもしれない。

ーー実際、2020年からはじまる授業では、プログラミング教育という授業があるわけではなく、各教科にプログラミングが入ってくるということになっています。これは先生方にとっては問題ないのでしょうか。

野崎 いや、実際に教科の中でやるっていうのは、かなりハードルが高いと思います。教科の中でやるということは、教科も理解してなおかつプログラミングも理解しなくてはならない。でないとどっちつかずになってしまいます。今回、3、4年生の授業で、音楽の学習をプログラミングでやっているのですが、その場合に音楽の知識を理解できていない子は、プログラミングをキチンとつくれません。たとえば一小節に4拍子のときに、4分音符がいくつ入るか理解していないとプログラムが組めてもうまく音が鳴らなかったりするわけです。キチンと教科を理解した上で進まないといけないので、ハードルはかなり高いと思いますよ。

ーーなるほど。一方で親御さんの中には、このプログラミング教育がどのように役に立つのかわからない人も多いと思います。プログラミング教育は他の授業とどのように違うのでしょうか。

野崎 そうですね、プログラミング教育は他の授業と違って、わからなかったところ、間違ったところをそのままにはできないんです。その場でエラーが出るので、直さないと次に進めない。トライアンドエラーがその場ですぐにできるのがプログラミング教育のメリットではないでしょうか。

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実際に授業を見ていても、うまくいかなかったらすぐにプログラムを書き換えて何度もやり直すチームがほとんどでした。失敗することが苦手な人が増えているといわれる昨今、このような授業はとても大切ではないでしょうか。

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