ヘルシンキのスタートアップイベント「Slush」で見えてきたヨーロッパのプログラミング教育【ヨーロッパのSTEM教育探訪】

世界最大級のスタートアップと起業家の祭典「Slush」は、フィンランド・ヘルシンキが発祥の地。そのSlushの2018年版「Slush 2018」が、12月4日と5日に開催されました。38カテゴリ、3100社にも及ぶ出展企業の中から、STEM教育に関するスタートアップ3社を紹介します。

Slush 2018メイン会場のエントランス

ごっこ遊びで探求の世界に飛び込みやすくする「Kide Science」

3歳から8歳の子どもたちを対象とした、自然科学に親しむための学習プログラムを提供する「Kide Science(キデサイエンス)」。サイエンスクラブの教室では、子どもたちが研究者さながらの白衣とゴーグルを身につけ科学者ごっこをしながら、用意された研究課題をクリアしていきます

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展示ブースに置いてあったロボット型デバイス。ライトが光ったり風船が膨らむ仕掛けがある

Kide ScienceのファウンダーでもあるJenni Vartiainen氏がもっともこだわているのは、ストーリーにもとづく好奇心の探求。子どもならではの素直な疑問を受け止め、そこから自然科学の世界に引き込んでいきます。そのためにも、Kide Scienceでは先生のトレーニングに力を入れています。学問の知識だけでなく、子どもの好奇心を引き出すスキルが大事。面接でその基準をクリアした先生のみが認定されます。その数はなんと40名(2018年12月現在)。

基準をクリアし、認定された先生一覧

フランチャイズ型のアフタースクールとして展開しており、これまではフィンランドを中心に展開してきましたが、今後はアジア圏にも進出予定で、すでにシンガポールや香港などでの展開も決まっています。

ソフトウェアとデバイスを一緒に学べる「ROBBO」

従来の教育方針ではソフトウェアとデバイスの学習課程が切り離されていることに課題を感じた
ROBBO(ロボ)」では、それらを一体化したデバイス込みの教材を開発。アクションボタンが一体化したコントローラー型デバイス「Lab」と、磁石で着脱可能な5つのセンサーパーツをもつロボット型デバイス「Robbo Kit」を基軸とした教材をフランチャイズ展開しており、すでに10カ国100以上の教育機関で導入されています。

着脱可能なセンサーがついたRobot Kit

対象年齢は5歳から15歳。ソフトウェアは、Scratchプログラミング言語の拡張版であるRobboScratchを採用しています。またヘルシンキ大学と共同でコンテンツ開発されており、チュートリアルも充実。生徒は自らのペースで学習を進めることができます

おもしろいのは、ROBBOを使ったプログラミング教育において、先生は必ずしもプログラムを熟知している必要がないということです。CTOのAndrey Smirnov氏は「重要なのは、やってみたいことがすぐ実装できること。そのために、(市販のArduinoでも十分簡単だけど)もっとシンプルなデバイスにしている」と言います。

こちらのスタートアップは、ロシアとフィンランドが一緒に運営していて、ロボティックスが得意なサンクトペテルブルクのメンバーと、ヘルシンキ大学で教育科学を専門とするメンバーがタッグを組んでいます。Smirnov氏によると、「都市間の移動は車で5時間程度。お互いの得意なものを持ち寄るのには決して遠くない距離だから協業がしやすい」のだそうです。

12-19歳対象のプログラミング教育「Mehackit」

オープンソース技術を活用し、アートや音楽、ハードウェアを用いたテクノロジー教育のためのワークショップをするスタートアップ「Mehackit(ミーハックイット)」。この度、バーチャルクラスルームのカリキュラムとして「Mehackit Atelier」を開発し、そのキャンペーン目的でブース出展をしていました(2019年3月正式リリース予定)。

カリキュラムは7週間程度で終わるものを想定。簡単にプロトタイプできるよう、Arduino Unoやブレッドボード、ジャンパワイヤーなどが一式揃った独自開発キットも販売予定とのこと。

mehackitが開発した「Maker Kit(開発キット)」も今後販売していく

「Mehackit Atelier」は、自ら技術にアクセスできる12歳から19歳のティーンが対象。教材自体はステップごとに動画やチェックリストなどを用いています。

公開中の動画コンテンツで解説しているのがCTOのSanna Reponen氏

CTOのSanna Reponen氏は「アイデアが思い浮かんだら、すぐプロトタイプできる環境をつくりたい。そこで必要なら、新たな技術や知識を身につけてブラッシュアップしていけばいい」と言っていました。

ヘルシンの図書館にはFabスペースがある

今回紹介したのは、ヘルシンキを基盤とする、異なる年齢層をターゲットにしたスタートアップ。いずれもつくり手の思いとして共通するのは、プログラミング学習の起点は子どもたちの興味関心にあるということです。必要なときにすぐに手を動かせる、そのための道具がいかに使いやすい状態にあるかがポイントになります。

最後にひとつ、ヘルシンキでおもしろかった事例を挙げます。公共の場におけるものづくりについて、です。

ヘルシンキ中央駅から徒歩5分のところにある図書館「Oodi(オーディ)」には、2階部分を使って大きなFabスペースがつくられています。オンライン予約すれば住民以外でも無料で、材料費のみで利用できるそうです。

Oodiの外観

2階Fabスペースに設置された3Dプリンタなどの機器

オープンな場所、かつ幅広い年齢層の方が集まるところの中心にFabスペースが増えていくというのも、紹介してきたスタートアップ同様「まずプロトタイプをつくってみよう」という環境を日常の中につくり出しているのだな、と感じました。

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