TSUTAYAなのに“TSUTAYAらしくない”本屋 「うさぎや」髙田直樹さんに聞く

2020年8月に創業100周年を迎えた本屋「うさぎや株式会社」。ここはTSUTAYAと提携しながらも、本の選定はうさぎや独自で行っているそうです。その理由はなんなのでしょうか。TSUTAYAで事業副本部長も務める髙田直樹さんにインタビューしました。

TSUTAYA本部の発注ではなく独自の売り場構成にこだわる

宇都宮の本屋には一風変わった人物がいます。今年100周年を迎えた本屋でTSUTAYA事業副本部長を務める髙田直樹さんです。現在、埼玉県・栃木県・宮城県で15店舗あるうちの14店舗の本部門を統括しています。

TSUTAYA本部の発注ではなく、独自の売り場構成にこだわる理由やコロナ禍で起きた変化、また「USTUNOMIYA BOOK LIGHTS」や「PARK READING」などの本にかかわるイベントを、会社の枠を越えて仕掛ける情熱のありかについて聞きました。また、オススメの一冊『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』(白水社)についてもうかがいました。

創業100年を迎えた、まちの「本屋」

2020年8月に創業100周年を迎えた「うさぎや株式会社」。最初は教科書や文房具などを取り扱うまちの小さな本屋さんでした。2代目が1988年に「TSUTAYA」と提携すると1990年代は年に年1のペースで新店を立ち上げていきます。

「うさぎや株式会社」はタリーズコーヒーや学習塾との提携で業務を拡大し、今では15店舗を経営。そのうち14店舗の「本部門」をとりまとめるのが髙田直樹さんです。

オススメの本は『パトリックと本を読む』ひとり出版社「夏葉社」コーナー前で、髙田直樹さん

入社1年目は、1996年にオープンした作新学院店のレンタル部門に配属。1年間のキャリアを積むと、翌年には本部門への思わぬ異動に。VHSやCDの特集から本の仕事へ「より自由度が高く、好きなことができる」と手ごたえがあったようです。

片っぱなしから本屋にある本を読んで

那須烏山市主出身の髙田さんが本好きを自覚したのは高校生のころ。自身の読書遍歴は「おっさん趣味だった」らしく、国内ミステリの代表である内田康夫作品や西村京太郎作品にドはまりしていました。

「通学路に越雲書店という本屋があって、当時出ていた本の列で最初から最後まで。ファストフード店やファミレスもなく、コンビニもほとんどありませんでしたから。暇だったんでしょうね(笑)読み切ったつもりでも別の出版社から出ているのを見つけて、この本は何だ!? と思いながら片っぱしから読んでいました」

児童書コーナー、子どもが自ら本を選べる広さがある

「大学もたまたま経営学部に受かっただけで、目的があったわけでないんです。こう、スルンっと進んでいった記憶があります」

大学4年生のころに本屋でアルバイト経験もしたそうですが「返本作業ばかりで、時給も500円台だったかな……」

本にまつわるさまざまな活躍をする髙田さん。話を聞くにつれ、ひょうひょうとした言葉とは裏腹に、情熱的な一面も秘めていました。

社員もアルバイトも「考えるクセを」残しておくべき

多くの「TSUTAYA」と提携する本屋は、選書も発注もTSUTAYA本部が担う方式を採用しています。しかし「TSUTAYA」とは提携する「うさぎや」では、並ぶ本のラインナップは「うさぎや」スタッフ独自で選び発注した本をメインに並べています。なぜなのでしょうか。

「本についての本」が50タイトル以上のコーナーがある

「取次やフランチャイズ本部が決めた本を指示通りに並べるのも一つのやり方だとは思います」

本の知識がなくとも、売り上げを出せる現場でのメリットも理解しながらも、髙田さんはデメリットも大きいことを指摘します。

「一方で置かれない本が存在してしまうことも意味するのではないかなと。毎日、これだけの本が出ているにもかかわらず一部のバイヤーによって、決められてしまう味気なさ、また怖さや不気味さといったものを感じてしまうんです」

髙田さんの手元には、版元からの新刊案内のFAXや、読みかけの本の数々がある

また管理職の立場からも「考える行為そのものを奪うやり方を一度してしまうと、もとには戻せません。社員やアルバイト1人1人が考えることのほうが尊いと思います。そのときは(売り上げの)結果が必ずしも伴わなくていい」と、人を大切にする考え方を教えてくれました。

あえてコントロールしないことで、ひとつひとつの本屋らしい特色もあるといいます。「全国的なベストセラーがバンバン売れることよりも、ウチのお客さんはきっとこういうのが好きだなと思って仕入れた本がコツコツ売れることのほうがうれしい」と本音をもらす髙田さん。とくにTSUTAYA栃木城内店は新刊書にも「渋い良書」が多く並び、「店の品ぞろえに、先を越された! と思うこともあって、口を出さないようにしています(笑)」

本屋さんの本棚はお客さんがつくるのか。本屋さんがつくるのか? さまざまな本があると同時に、さまざまな人がいる。本屋の多様な空間のおもしろさを感じます。

社員制度の新たな取り組み。コロナ禍で起きた変化は

コロナ禍に見まわれた、今年の2月から6月は、髙田さんも驚くほど「時間ができた」といいます。直接書店営業の来訪がなくなったことが大きな理由だそう。そこで新たに社内企画を立ち上げ、社内研修や、店舗見学、また「本の塾」と銘打ち全3回の社内講座を開催。さらに「本を読む」スタッフを大切にする制度として、本のナビゲーター「リーダーズ」という評価軸も、今後進めていく予定だといいます。一貫して、時間をかけて人を育てることに力を注いでいることが伝わります。

本のフェスやプロジェクトも続々

2019年4月、宇都宮に本の光をともす本のフェスとテーマを掲げ「UTSUNOMIYA BOOK LIGHTS」は、宇都宮駅から徒歩15分の二荒山神社前のバンバひろばで開催されました。髙田さんは、本屋同士も業界の垣根を越えられるよう「宇都宮ブックライツ実行委員会」を発足しました。食や音楽、出版社14社、古書店5店らが出店する盛り上がりよう。

他にも「どこでも本屋さん」と、小売り選書サービスや、公園で本を読むイベント「PARK READING」、古書販売の「SATELLITE CITY BOOKS」といった、「本」のプロジェクトも数々立ち上げて運営を続けています。

「もとは宇都宮にある商店街でオリオン通りの一箱古本市へ出店したのがきっかけで、おもしろいと思っていたんです。ただ機会が多くはないと気づいて、思い切って場をつくりました。せっかくならと多くの方に参加できるよう、参加者の負担を減らす仕組み考えました。たとえば当日の搬入や販売も、こちらで代行。売れ残り分は店で後日販売します」

情熱がなければできることではありません。「思いついたら話してしまう性分です。“やるのやめた”とは言いたくない。ダサいことはしたくない。気づいたら引き下がれずにここまできています」

2020年はコロナ禍により開催中止となったが、出店数も増える予定だったとのこと。次回の開催が今から待ち遠しくなりました。

オススメの本は『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』

ここまでの髙田さんの情熱に火をつけたものはいったいなんなのか。

転機3年前。「足が痛み、医者にかかると生涯歩けなくなるとまで言われた」ことを明かしてくれました。

「足の骨に穴が開いていたらしく、突然、松葉杖生活です。生活もひとりではまともにできませんでした。両手がふさがって本の陳列をなおすのもままなりませんでしたから。今は回復しましたが、長い10カ月の松葉杖生活を通じて、本屋ができることへの考え方が一変しました」

オススメの一冊である『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』もまた、「本の力のようなものを物語っている」と髙田さんはいいます。

ノンフィクション作品で、教師・ミッシェルは貧しいことさえわからない貧困のまちの少年・パトリックに出会います。数年後に再会したとき、パトリックは刃物で人を傷つけていました。ミッシェルはかつての教え子に読書を通じて交流を続けます。

組織と個人の枠を「本」のかけ橋で自由に行き来し、相乗効果を生み出す髙田さんの日々。今後は「大人向けの朗読会」や「小さな本屋」をつくる構想もあるといいます。これからの本と本屋のあり方が見直される今、本を通じ、あふれるアイデアと新しい企画への実行力に感嘆してしまいました。

うさぎやの店々と髙田さんのこれからの活動にも注目です。

うさぎや 宇都宮東口

高田さんオススメの一冊

  • 『パトリックと本を読む 絶望から立ち上がるための読書会』
  • 著者:ミシェル・クオ
  • 翻訳:神田 由布子
  • 出版社:白水社
  • 刊行年:2020年5月7日