宇宙にはばたく人材を輩出したい。未来の技術を競う「宇宙エレベーターロボット競技会」とは【実行委員長インタビュー】

小学生から高校生まで参加することができる、レゴとロボットを使った宇宙エレベーターロボット競技会。その実行委員長であり、神奈川大学附属中・高等学校の副校長でもある小林道夫先生に、「宇宙エレベーター」と「ロボット」をなぜ組み合わせたのか、子どもにどんな影響があるかなどを聞いてみました。

ロボットで物資を運ぶ「宇宙エレベーターロボット競技会」

「宇宙エレベーターロボット競技会」は、小中高校生対象のチーム参加型ロボット競技会です。レゴ教材とレゴ社のマインドストームを使って、未来の技術である「宇宙エレベーター※」のロボットを製作。天井に設置された宇宙ステーションに見立てた箱に、物資(ピンポン球)を運んで入れて、その数などを競う競技です。

2018年11月には、神奈川大学で全国大会が開催され、各地の予選を勝ち抜いた小中高生の元気な声で会場が盛り上がっていました。

※宇宙ステーションから地球に向かってケーブルなどを伸ばし、そこにエレベーターのように昇降機をつけて人や物資を送るもの。

きっかけは「宇宙エレベーター協会」からの打診

——「宇宙エレベーター」は、なかなか一般の人にはなじみのない言葉ですが、そもそもなぜ宇宙エレベーターで競技をやろうと思ったのですか。

小林道夫先生(以下、小林) 日本に「宇宙エレベーター協会」というのがあって、その協会を立ち上げた、神奈川大学の元技術職員だった大野修一さんから、ある日電話がかかってきたんです。「宇宙エレベーター協会をはじめたんだけど、それを広めるために、レゴとロボットを使って競技会をやらないか?」と。

僕も元々レゴ社のマインドストームをつかった授業をしたことがあったので、せっかくなのでやってみようと思ったのです。

——ではこの競技は、宇宙エレベーター協会からの提案だったのですね。でもなぜロボットで競技をすることにしたのですか?

小林 宇宙開発は今や「いかに安全に、人を使わず開発をするか」と言われていて、AIやロボットなどを使った無人のロケットを打ち上げたり、宇宙エレベーターを使って物資を宇宙に運んだりする可能性が非常に高いのです。そのロボットを自動化するにはセンシングテクノロジーがとても大事。そこで、ロボットのセンサーを制御するプログラミングを競う競技にしたかったのです。

小学生から高校生まで幅広い層の子どもが参加

——宇宙エレベーターロボット競技会には、どのような子どもやチームが参加しているのですか。

小林 小学生から高校生まで幅広く参加しています。2013年に開催された第一回では、高校生しか参加していませんでしたが、近年は小学生も地元のロボット教室やプログラミング教室など、教室ごとにチームを作って参加することが多いです。中学生や高校生は部活やクラブ活動での参加が多いですね。

——この競技は小学生にとってむずかしくないですか?

小林 そうですね。私も土日に小学校でプログラミング教室の講師をすることがあるのですが、そのときはレゴ社のマインドストームを使って、横の移動をする「車のようなもの」をつくります。小学生でも、それは比較的簡単につくることができるのですが、宇宙エレベーターのような上下の運動になると、より難くなるので、教えるのにもかなり時間が必要ですね。

——小中高校生で、どの学齢から技術の差が見られますか。

小林 競技の部門が「小学生」と「中高生」と大きく2つに分かれているのですが、中高生部門にはすごい作品が出てきます。今回の全国大会の【中高生中級部門】では、高校生を抑えて「早稲田中学校物理研究部」が優勝しました。もちろん、高校生も凄いものをつくってきますけど。

子供の伸び方はサポートの仕方で変わる

——競技に参加することで、子どもにとってどんな学びになりますか。

小林 競技会の実行委員会は主に高校や大学の教員で編成されているのですが、あるとき、実行委員の先生みんなで他のロボット競技会を見学したところ「競技会で勝つというのは目標ではあるが、はたして学びなのか」という疑問がでてきました。

なので、この「宇宙エレベーターロボット競技会」では、勝つことだけが大事ではなく、失敗も成功も含めて、ものづくりや宇宙、プログラミングにも興味をもってもらえるよう工夫しています。また、プログラミング難易度が少し高めなので、わからないことを誰かに聞いたり調べることで、問題解決力やコミュニケーション能力、想像力の育成が期待できます。

私たちが目指しているのは、STEM※で言われているような、サイエンスとテクノロジー、物理学や数学など絡めたプロジェクト学習。それぞれの教科にとらわれず、さまざまなことを複合的に学べる環境をつくることで、いろいろな教科への興味や力もついていきます。

高校生になると「文系」「理系」で進路が分かれます。「文系だから数学は勉強しなくていいや」という生徒も少なからずいますが、実はものづくりやロボット、プログラミングには、文系と理系どちらの要素も必要です。勉強しなくてよい教科を勝手に決めつけないで、自由にチャレンジして学んでほしいですね。

※サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング、マスマティックスの頭文字をとったもの。

—— 実際に子どもがこの競技に興味をもったとき、親としてはなにができますか?

小林 サポートしすぎない、アドバイスしすぎないのが大事。プログラミングを通じた「まなび」をさせてあげたいというときに、親や先生が細かくアドバイスをしたり手伝ってしまうと、子どもの成長を止めてしまいます。すると、競技中にトラブルが起きた際に、親の顔を見て助けを求めるようになってしまう。

——大会では親と子どもは離されるのですよね?

小林 ええ。ですが、会場でイチからつくるような競技とは違い、ロボット自体は会場に来る前につくってもってくるので、それが親がつくったものなのか本人がつくったものか判断するのが難しいんですよ。

「宇宙教育」を通じて技術者を育てたい

——一方で、宇宙エレベーターは実現可能とも不可能とも言われています。小林先生は将来的に宇宙エレベーターは完成すると思われますか?

小林 すると思います。ただ実現させるには、日本からも技術者を輩出する必要がありますが、日本では小学校だと理科で、中学高校では地学で触れるだけで、宇宙の勉強はすぐ終わってしまいます。技術者を育てるにはまず興味をもってもらわないといけないのにね。

ーーその子どもに興味をもってもらうための工夫はなにかされているのですか。

小林 中学高校になってくると、宇宙よりもプログラミング技術のほうに興味がわいてきます。一番「宇宙」に反応してくれるのは小学生ですね。なので、小学生のうちから宇宙とはどういうもので、宇宙エレベーターにはどんな利点や問題点があるのか、宇宙開発はなにを目指してるのかなどといった「宇宙学習」を通して、まずは宇宙に興味をもってもらうことが大事です。

将来的には宇宙エレベーターの最先端の担い手になってほしいので、いつも全国大会では、宇宙エレベーターの技術についてや最新の情報などを、日本大学の青木義男教授に講演してもらっています。

興味をもっている子どもへメッセージ

——興味をもっている子どもに向けてのメッセージなどはありますか。

小林 いつか地球は人が住めなくなってしまうし、地球とは違う星で「住める星」を探す必要があるので、もうともかく、人類は宇宙開発をしなきゃいけないんです。その一番の解決策は「宇宙エレベーター」だと、私は思っています。なので、宇宙エレベーターに興味をもってもらい、是非競技にチャレンジしてほしいです。

宇宙エレベーターロボット競技会は、センシングプログラミングの技術を磨くだけでなく、宇宙や未来の技術について理解を深めることができる、おもしろい競技です。大会では、小中高校生が年齢関係なくロボットの制作経緯を発表し合っていて、とてもいい刺激になるのではと感じました。