入り口はどこ?曜日や時間で入店方法が変わる古本屋 青柳菜摘さんに聞く“本とアートのあいだ”

東京藝術大学大学院映像研究科出身の3名、和田信太郎さん、清水玄さん、青柳菜摘さんが主宰する「コ本や honkbooks」。東京・王子で路面店でのオープンから3年を経て、2019年11月にビル2階に移転しました。都内の古本屋さんとしても広さがある一方、表看板がなく、曜日や時間によって入店する方法が変わります。実験場としての魅力を兼ね備えた「コ本やhonkbooks」について、アーティストとしても活動する主宰のひとり青柳菜摘さんにお話をうかがいました。

ビル2階、看板のない古本屋

2019年11月にリニューアルオープンした「コ本や honkbooks」はJR池袋駅から徒歩10分、ビル2階に位置しています。入口には看板がありません。さらに大きな特徴として曜日や時間によって入店方法が変わります

この「不便さ」は大きな魅力のひとつといえるかもしれません。なぜならば、その先には、みすず書房、筑摩書房といった哲学、人文、演劇、映画、アートのジャンルから絵本、児童書、図録、ZINEと幅広く、ツウもうなる品揃えが並んでいるからです。

新たなに誕生したオープンスペース「theca(テカ)」も加わり、全体では移転前の3倍の広さをもつ、実験場としての一面も持ち合わせています。アーティストの展覧会や新刊、古本など、さまざまな共通点で本と人が集う空間。

奥行きのある店内。都内でも群を抜く広さ

2016年のオープンから約3年、王子で路面店を開いていたころは「老若男女問わず訪れる、まちの本屋さんだった」と言います。なぜ移転を決断したのでしょう。「地域からはみ出したお客さんが増えたため」と語るのは、主宰のひとりである青柳菜摘さん。芸術活動の拠点としての「コ本や」とは?お話をうかがいました。

青柳菜摘さん。他、和田信太郎さん、清水玄さんの3名が主宰

絵本は本屋に並んでいるものだけではない

もともと本が好きだった青柳さん。中学生のころに「絵本作家になる」と夢を描いていたそうです。

「ただ高校生のとき、私の作りたい“絵本”とは違うのではないか、絵本は本屋に並んでいるものだけではないと考え始めました」

東京藝術大学へ進学し、和田信太郎さん、清水玄さんらと出会います。

移転前から児童書の品揃えには自信、国内外の絵本も

2015年末、大学院を卒業するタイミングで「コ本や」のプロジェクトをスタート。「仕事にもつながっていく場を作っていこうと」思いはあったものの、本屋自体は初めてのこと。清水玄さんが神保町の古本屋でアルバイトしていた経験もあり、当時は横浜・白楽にある古本屋「Tweed Books」の細川克己さんにイロハを聞きに行った、とのことでした。

物語から広がるアート

新たに誕生したオープンスペース「theca(テカ)」には内包する、袋という意味があるといいます。

オープンスペース「theca(テカ)」:[展覧会]青柳菜摘+佐藤朋子「TWO PRIVATE ROOMS – 往復朗読」の様子

個人の創作と「コ本や」の主宰にはどのような違いがあるのでしょうか。

「基本的に本屋と、アーティストの自分は別で考えています。作品づくりは、“こう”と決めたら突き進むような孤独な作業でもあります。ですがコ本やは、誰もが訪れてくれる場所です。いろいろな人の視点やマインドが存在する“公共的な部分”があると思います」

レジ横にはどこかレトロな「コ本や」の看板が灯る

「たとえば本屋さんには、学校に行けないときにも子どもたちのよりどころのような機能もあると思います。どんな人にも自分の時間を探しに来てほしいと考えています」

本屋に漂う少しの緊張感。まるで美術館で名作と向かい合うような。何かを試されているような感覚にも陥りました。個人であり、アーティストであり、主宰である青柳さん、アートと本の間でどんなインスピレーションを受けているのでしょう。

コロナ禍で売り切れが相次いだ「古書お楽しみパック」

2020年4月に始めた「古書 お楽しみパック」は1セット5,000円 。2つのキーワードからアーティストの視点で選書が行われました。反響が相次いで一時販売を中止するほど話題になるほど。どのようなキーワードがあったのでしょうか。

「たとえば“写真と動物“ですとか“祈りと優雅”、“断ち切ると可愛い”などと抽象的なものほど想像力を刺激されました。“双子”“温泉”というキーワードからは、泉、地域、と湧き出るもの、といったところからイメージをどんどん膨らませていくんです」

図録から文庫、絵本も天井スレスレまで並ぶ。独創的な雰囲気を醸し出す

「本を選ぶのは楽しかったです。普段から背表紙をよく眺めているので。難しかった点は、入れたい本が被ってしまうこともありましたし、見た目のバランスなども気をつけると時間がかかりました。届いた方から、持っている本もあったが好みを読み取られたようでびっくりした、と報告を受けて、うれしくもなりました」

本屋を営む青柳さんならではのセンス。たった2つのキーワードから相手のことを想像を広げていく力に驚かされます。

長く続けていくために、形態にとらわれない

最後に、これからの「コ本や」についてうかがいました。

「野望があるんです。また新潟や他県など離れたところでコ本やの企画をやってみたいなと」

過去にも子どもたちも参加したイベントで、アート活動に赴き、縁が生まれた地だそう。

「コロナ禍で場に集まれない、ということを経験しました。オンラインでさまざまな取り組みをやり始めて、よりいっそう、人が集まる大切さを思い知らされたんです。画面越しだと切り取られてしまう、一緒にいる空気感などでしょうか」

5年の間に「関わってくれる人の幅が増えた」と変化を実感しているそう。「形態は変わっていったとしても、長く続けたい」と思いを打ち明けてくれました。

そんな青柳さん、おすすめの本は、詩人の河野聡子著の『あるときはぶかぶかの靴を、あるときは窮屈な靴をはけ』。リトルプレスで翻訳本を中心にした書評集でブックガイドとしてもエッセイとしても気になる本が満載です。

手探り状態だった過去を懐かしそうにしながらも、スタートには迷いがなかった様子が印象的です。今やアーティストである青柳さん表現方法は、ひとつではありません。詩や映像だけでなく絵画や文章など……。

SNSを通じた表現として朗読やドローイングといった手法もさまざま。タイトルが象徴するように、そのときの状況応じて、変化する選択ができることが「コ本や」や青柳さんの強さになるのかもしれません。

「コ本や」主宰 青柳さんおすすめの一冊

あるときはぶかぶかの靴を、あるときは窮屈な靴をはけ

  • 著者:河野聡子
  • 刊行年:2018年

お店の情報

コ本やhonkbooks

  • 住所:〒171-0014 東京都豊島区池袋2-24-2 メゾン旭2F
  • 営業時間: 12:00-20:00
  • 平日の12時~17時まで と平日17時~20時、土、日、祝日、病院休診日は入り方が異なるため、下記URLから詳細をチェックしてください。
    https://honkbooks.com/access/