2019年に日本上陸。エストニアで開かれたロボットの祭典「Robotex」から学ぶ、未来を想像し探求するためのヒント【ヨーロッパのSTEM教育探訪】

2018年11月30日から12月2日まで、エストニアの首都タリンで開催された世界最大級の国際ロボットフェスティバル「Robotex International 2018(ロボテックス。以下、Robotex)」についてレポートします。

「見る、触る、作る」が詰まった3日間

2001年にはじまり、18回目を迎えたRobotex。「カンファレンス」「ロボット競技会(ロボコン)」「ワークショップ」「ブース展示(EXPO)」を通じて、ロボット業界の先端事例や最新テクノロジーが学べる、年に一度のお祭りです。

2日目正午くらいのEXPO会場

Robotexのロゴ

Robotexブログで発表された数字によれば、2018年の参加者は世界46ヶ国から20000人以上。ロボコンは3日間で26種類が行われ、3歳から68歳までの2406人が競技に参加したとのこと。

筆者が訪問したのはエキシビションセンター。市の中心部からバスで15分、タリン最大の屋内イベント施設で、広さは東京ビッグサイト東展示棟およそ1ホール分のスペース。ここではカンファレンス以外が行われていました。また、ロボコンとEXPOの境目はロープ一本でしか仕切られておらず、どこにいてもロボコンの熱気が伝わり、土日には朝から多くの家族連れで賑わっていました。

エキシビションセンター会場のマップ

ロボットを通じて、ビジネスと教育が混ざり合う

Robotexの第一印象は、ごちゃ混ぜであるということ。会場内にはロボットに関するコンテンツが混在しており、そこに集まっている人も幼児からシニアまで多様です。エントランスに近いエリアはEXPOエリアとなっており、企業と大学のブースが並びます。工業用のロボットアームから宅配モビリティ、ドローン、ロボットプラットフォームや衛星などがありました。

EXPOエリアの様子

他のトレードショーではあまり見かけない、ビジネス用途で開発されたロボットを子どもたちが触っているという場面も多くありました。

一番の人気者はStarshipの小型宅配ロボット。EXPOエリアでデモ走行していると、必ずといっていいほど幼稚園から小学校低学年くらいまでの子どもたちに追いかけられていました。自動走行しているので、急に前に飛び出したり人が立ち止まっていると減速して停止します。その姿を見て、一人の子どもが「目がついてるみたい」と言い出し、どこで見ているのか探りはじめます。またフタを開けて、中に入ってるチラシを出し入れしたり、抱えるなどして遊んでいます。

その隣りにはタリン応用科学大学が既存プロダクトをハックして開発したというアーム付きの工業用ロボットがあり、その仕組みに興味をもつ小学生の姿もそこにありました。

Starship社の小型宅配ロボットで遊ぶ子どもたち

タリン応用科学大学の工業用ロボット

ロボットに触れる機会が増えることについて、タリン応用科学大学のクリスト・ベア氏は「子どもの頃から多様なロボットに触れることは大事。プログラミング教育とはプログラムの記述方法を学ぶだけでなく、どんなサービスを作りたいか具体的に想像する力を養うことでもある。ですので、ビジネス向けだろうとコンシューマー向けだろうと関係なく、ロボットを実際に体験することに意味がある」と言います。

近くには、今回のカンファレンスで発表されたばかりのCleveron社のオムニチャネル・リテール向け宅配ロボットも展示。スーツ姿の商談が行われる横で、子どもたちが大きなモビリティを覗き込む姿はRobotexならではの光景ですね。

Cleveron社のオムニチャネル・リテール向けの宅配ロボット

タリン工科大学とタルトゥ大学の存在感

Robotexではエストニアだけでなく、世界各国のロボット研究者や企業などの専門家がイベントを支えています。しかし、中でも大きな存在感を示していたのは、やはりエストニアの大学でした。タリン工科大学とタルトゥ大学がプレミアムパートナーとなっており、数多くのコンテンツが提供されていました。

自動運転フォーミュラカーや人工衛星の開発などの研究成果を説明したり、子どもたちが科学に興味をもつための仕掛けもいくつも用意してありました。

タルトゥ大学のブースでは子どもたちが科学体験

タリン工科大学が開発した自動運転バス

また3日目には、各大学主催のロボコンが開催されました。参加者のユニフォームを見るとロシアなど他の国からの参加者もいて、グローバルなイベントであることがわかります。

Taltech Folkrace(フォークレース)

1918年に創設された、エストニア唯一の工学系大学であるタリン工科大学は、フォークレースと呼ばれるラリークロスの一種の自動車レースを主催していました。参加するロボットの条件は自立型。自然地形の特徴から設計されたコースは前もって3Dデータが公開されており、それを事前に地形を学習したロボットが5台で競い合います。14歳以下とそれ以上の2カテゴリに分かれて対戦します。

レース中はとても静か。自動運転のためスタートしたら選手たちは腕組みしてコース外から見守っていました。

Folkrace中、フィールドを走行するロボットを見守る選手たち

Tartu University Basketball(バスケットボール)

エストニアの名門、タルトゥ大学が主催したのはバスケットボールの試合です。こちらもバッテリーやマイコンなどの機構が一体化した自律型ロボットであることが参加条件。フィールドに置かれたボールを拾い、ARマーカーを使ってゴール位置を特定してシュートします。参加者の年齢制限はありません。

最初にロボットが複数のボールを集めてシュートを連発するので、そのときは観客からも大きな歓声が上がっていました。

競技に向けてはタリン市内にあるハッカースペース「K-Space」が協賛。競技までの間、バスケットボールのテストフィールドを提供していました。

バスケットボールの競技に出場していた自律型ロボット

Robotexが日本で初開催!

昨年11月、Robotexが2019年に日本で初開催されることが発表されました。日本でRobotexをどう育てていきたいのか。Robotex Japan CEOの齋藤侑里子氏は「Robotex開催を通じて未来を探求するメイカーを育成したい」と言います。

「問題発見・問題解決能力、多様な価値観をもつ人々との共生・協働していく力を育て、さらには日本の土地に根付いてきたものづくりの精神性や作り手の思いにも光をあてていきたい」「メイカーを育てるのは環境であり、そこに生きる人」という齋藤氏。「みんなで未来を考えてワクワクし続けるためにも、Robotexをムーブメントにしたい」と開催準備を進めています。

近年、STEM教育にアートとロボット工学を加えたSTREAM(ストリーム)教育という言葉も耳にするようになりました。Robotexのごちゃ混ぜ感を通じて改めて思うのは、それぞれが学問領域として独立したものではなく、一緒に学んでいくべきものだということです。

子どもだけでなく、社会全体でワクワクしながら未来を想像し、探求する機会を増やしていきたいですね。

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